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綾美になにがわかるもんかと思う。それでも、ふと、もしかしたら理解を示してくれるかもという希望が顔をだす。多少酔っていたせいもあるかもしれない。けれど、一度胸にわきあがった淡い希望は、砂漠の中で水を求めるように、まっすぐに綾美へと向かっていった。
「綾美ちゃん」
「うん?」
「ダメなんだよね……」
「なにが?」
「──女の人」
綾美がぽかんと口を開けたまま固まっている。その顔を見て、失敗した、これで友人付き合いも終わりだと、隼人は急速に酔いが冷めていくのを感じていた。
「ごめん。今の聞かなかったことにして」
席を立とうとする隼人を、綾美が慌てて引き止める。
「待っ、待って。大丈夫。わたし、そういうの偏見ないし──」
隼人の腕を掴んだまま、わずか逡巡する綾美。時間にすれば三秒ほどだったかもしれないが、ふたりには長い長い時間のように思えた。すべてが時を止め互いに互いの顔しか見えない。喧騒が遠ざかり、隼人の耳に綾美の声だけがクリアに聞こえてくる。
「──わたしも同じだから」
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