93人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
あの時、綾美は確かにそう言った。わたしも同じ。すなわちそれは、自分も同性愛者だというカミングアウトでしかなかった。
今まで隼人にはその手のことを話せる友人がいなかった。もしかしたら同じように悩み、なんでも話せる友人を求めている人だっていたかもしれない。けれど、隼人は怖かった。それによくわからなかった。
物心つく頃には隼人のそばに母親はおらず、いたのは厳しい杉子だけ。ことあるごとに母親の悪口を聞かされ、杉子には厳しく育てられたものだから、自分が女性を好きになれないのは単なるトラウマなのではないかという疑念があったのだ。
真性かそうでないかなど、どちらでも良いのだろうが、思春期の少年にはそんなわけにはいかない。
──ぼくが女の子を好きになれないのは、おばあさまのせい。
──ぼくを置いていったお母さんのせい。
そう思い込むことだけで、隼人はなんとか自我を保っていた。クラスメイトが女の子の話題で盛り上がっている時、隼人はいつも苦痛だった。だが、皮肉なことに杉子の教えが役に立った。
最初のコメントを投稿しよう!