2-3『隼人』

9/11

93人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
『人の話を聞く時はつまらない顔をするんじゃないよ』 『いつも愛想良くにこにこするんだ』  心の奥ではつまらない、話に加わりたくないと思っていても、隼人は見事に作り笑いを顔に浮かべ、さも興味があるかのように相づちを打つことができた。だから、隼人が誰とも付き合わなくてもゲイだということを疑われたことは一度もない。  そうやってずっと仮面をつけて生きてきた隼人にとって、綾美はかけがえのない存在になっていった。誰にも話せなかったことを、綾美にだけはなんでも話せる。そして、綾美もまたそうだろうと思うと、隼人は綾美が自分のように思えて愛おしくて堪らなかった。  だから夕貴のことも紹介したのだ。  だから杉子をあざむくために綾美と偽装結婚までしたのだ。  だから綾美が子どもを望んだ時も人工受精でいいならと協力したのだ。  それなのに、綾美は嘘をついていた。同性愛者などというのは完全な嘘で、それは単に隼人との関係を保つためだけのものだったのだ──。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加