2-4『柊』

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04dba951-f245-4b47-b838-ac3f9f9daa64  嶋田翔として紗江に近付くことは簡単だった。五年も監視を続けていれば、嫌でも彼女の行動パターンは頭に入る。  柊はただ偶然を装い、行く先々で紗江を待ち伏せ、それがあたかも『運命』であるかのように印象付けた。最初は戸惑っていた紗江も「また会いましたね」と徐々に笑顔を見せるようになり、柊の思惑通り紗江の意識を隼人から逸らすことに成功したのだった。  とはいえ、完全に隼人から切り離すのは難しく、どんなに距離が縮まっても紗江が隼人を忘れることはなかった。 「ねえ、紗江さん。今村さんと別れる気はないの?」 「それは──だって、わたしがいなきゃ隼人さん死んじゃうかもしれないし」  紗江のひとりよがりな妄想は、もはや柊にも隼人にも手に負えないところまできていた。  だからこそ、柊は隼人に提案したのだ。 『紗江さんは、あなたと結婚してると思い込んでる』 『あぁ、そうだな』 『だから、それを逆手にとるんですよ』 『逆手に……?』 『おれと紗江さんが一緒にいるところを写真におさめる。そして──今村さん。あなたは彼女の夫としてそれを責め、離婚届に判を押させるんです』
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