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「翔くん、ちょっと出かけてくるね」
午後七時すぎ。急に紗江がなにかを思い立ったように、すっくとたちあがる。
「どこに行くの?」
「買い物。お花を買い忘れちゃって」
その言葉に嘘はないようだった。事実、紗江はいつも部屋に花を欠かさない。今、花瓶に活けられている花は少しだけ萎れている。
「明日にしたら? こんな時間に花屋って開いてるの?」
「うん。ちょっと遠いけど遅くまでやってる花屋さんがあるの」
「一緒に行こうか?」
「ううん。ひとりで大丈夫」
そそくさと部屋を出ていく紗江を見送ってから、すぐに柊もあとを追う。こんな時間に紗江をひとりで歩かせるわけにはいかなかった。もしかしたら隼人のところへ行くのでは? という危惧と、単純に夜のひとり歩きは危険だというふたつの心配が柊を突き動かす。
紗江は最寄りの駅から電車に乗り、三駅離れたところで電車を降りた。帰宅のラッシュは過ぎたようで、駅構内はあまり混み合っていない。紗江が改札を抜けたのを確認し、柊もあとへ続く。
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