2-4『柊』

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 駅周辺はあまり賑わっておらず、人通りも多くない。目的をもった紗江の足取りは早く、柊は見つからないようその都度に物陰に隠れながら、そのあとを追い続けた。  五分ほど歩いただろうか。ようやく花屋らしき明かりが見えてきた。隼人のところではなかったと柊はほっと息をもらす。ところが、花屋は紗江が到着するまでの間に店じまいとなってしまったようで、煌々と灯っていた明かりがパチンと消え、辺りは暗闇に包まれてしまった。  紗江がすぐに引き返してきたらまずいと、柊は慌てて路地へと身を潜めた。紗江は店の向かい側、道を挟んだ向こうに立っている。  ……紗江さん?  紗江はなにかをじっと見ているようだった。視線の先には花屋があり、店の前でひとりの男性が耳にスマートフォンを当てている。その顔には見覚えがあった。暗くてはっきりとは見えないが、柊の目には隼人の恋人である夕貴のように見えた。  嫌な予感がして、なにを思う間もなく路地から飛び出す。と、同時に紗江が夕貴に向かって走りだした。  嘘だろ……っ!
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