2-4『柊』

8/9

93人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
 柊も力強く地面を蹴り、花屋に向かって斜めに道路を横断する。紗江が夕貴に危害を加えるものだとばかり思っていた。  が──。 「あぶない!」  そう叫んだのは紗江だった。どこからか飛び出してきたキャップをかぶった男が、夕貴にナイフを向けている。驚きスマートフォンを地面に落とす夕貴。駆けてきた紗江が夕貴を突き飛ばし、キャップの男が紗江に体当たりする。 「──紗江さんっ!」  なにもかもが、あと一歩遅かった。伸ばした手も叫んだ声も、どれひとつとして間に合わない。ナイフが紗江の脇腹に刺さり、そのまま地面に向かって倒れていく。 「……な、なんで……」  キャップの男は男ではなかった。隼人の元妻、綾美。紗江に駆け寄り抱きかかえる柊の傍ら、夕貴がハッとしたようにスマートフォンを拾いあげ、救急車を呼んでいる。 「紗江さん! 頼むよ……死なないでくれ……っ」 「……しょ……く、ん」 「喋らないで。今、すぐに救急車がくるから」  紗江がかすかに首を横に振り、なにかを必死に訴えている。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加