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「…………て」
に・げ・て。
紗江のくちびるは確かにそう動き、綾美を指さしている。
「紗江さん?」
「……やみ、さん……にげ、て……」
意味がわからなかった。なぜ、紗江は綾美を逃がそうとするのか。
「……これ、は……罰。わ、たしのせい……だから…………みさんは」
悪くない。
「……逃げろってさ」
綾美は呆然としたまま立ち尽くしている。両手には革の手袋。ナイフの柄に綾美の指紋はついていない。人通りも少ないため、目撃者はここにいる四人だけ。
救急車のサイレンが近付いてくる。
「早く行け!」
柊が叫ぶと綾美は我に返ったように、パッと踵を返しすぐに闇へと消えていった。
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