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どこだ、ここ。
真っ白い天井に真っ白い壁。安っぽい蛍光灯。窓の外はだだっ広い空と緑豊かな庭。かなりの高層ビルの一室かそれとも、相当の田舎か。窓の反対側に視線を向けると、点滴があった。ぽたりぽたりとごく少量ずつ流れていく先を辿ると、それは自分の左腕に繋がっている。持ち上げてみる。針が埋め込まれている違和感があるが、特に不自然な点はない。身体を起こそうとすると、ずきりと後頭部が激しい痛みを訴えた。
「いっ……」
思わずうめき声が漏れるほどのそれをやり過ごし、身体を起こすと、どうやら病院の一室であるらしいことがわかる。しかしどうしてここにいるのかが思い出せない。痛む頭に手を当てると包帯が巻かれていた。事故にでも遭ったのだろうか。
と、考えて、あることに気が付き、愕然としていると、トントンと控えめなノックが響いた。一拍置いて、返事を待たずにドアが開く。現れたのは、とてもきれいな、人形のような青年だった。
「……!?あ、目が、覚めて……」
驚愕の表情を浮かべた青年は、僅かに唇を震わせ、部屋に入ってくる。ベッド脇に備えられたナースコールを鳴らしてから粗末な丸椅子に腰掛けると、青年はニコリと微笑んだ。形のいい眉が困ったように下がっていたので、彼も困惑していることが見て取れた。
「気分はどう?」
「……頭が、痛い」
「五針も縫ったんだよ」
「そうか……」
「心配したよ、あれからもう三日も経って……頭だったから、お医者さんも油断できないって」
じわりと緑色の瞳を濡らした青年はふるふると頭を振り、涙の影を消して再び顔を上げた。
「でも家の方はなんとかしたから、退院したら」
「家?俺の?」
「そうだよ、俺たちの家」
「俺たち……?」
青年は怪訝そうに眉を顰め、首を傾げた。その美しい顔に、見覚えは、ない。
「あんた、誰だ」
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