第六十七話 「Убеждение(説得)」

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第六十七話 「Убеждение(説得)」

3539afb9-abe7-4a33-960c-bf0898b76c54「(今日で五日------...)」 "ガサッ" 「(・・・本当に、ツベフォフを   Earth nEwsに呼べるのか...?)」 Абсолютная--Ø (アブソリューチナヤ・ゼロ)。 おそらく、この地下施設の作業者のために 用意されたと思われる、狭く無機質な 部屋の中に置かれたベッドの上で、 隆和は自分のベッドの隅に置かれている "トゥルレジェ・FUNBOOK" の下巻を手に取る 「(麻衣....)」 "パッ パッ" まるで、疲れ果てた小鳥が胸元へと舞い込む様に、 すでにここに来てから何度も繰り返し、 暗誦(あんしょう)する程読み返し ボロボロになった "トゥルレジェ・FUNBOOK!" の下巻を手に取り、隆和は小鳥が羽を休める様に 閉じていたトゥルレジェ・FUNBOOK!の カバーに付いた埃を払う.... 「(ここに来てから、五日以上経ったが・・・)」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【------それなら本社には戻らないで、  そのまま、お前はそこでツベフォフを  Earth nEwsの論説委員になる様  説得し続けろ】 【は、はあ....】 日朝の三人が、 Абсолютная―Øに来てから 五日程が経ったが ツベフォフの態度が変わる事は無く、 変わらずEarth nEwsの論説委員になる事に 難色を示しているのを見て、隆和は再び ヨーロッパ管区総局長である 河野 洋文に電話で連絡を取る 【...いえ、すでにここに来てから  三日以上経ってますが、ツベフォフ氏を  Earth nEwsの論説委員に説得するのは  かなり難しいのでは無いかと...】 【・・・何でだ?】 二日程前 Абсолютная―Ø (アブソリューチナヤ・ゼロ) での作業を終え、地上のツベフォフの自宅へと 戻って来ると、ツベフォフの説得が 難しい事を河野に伝えるが、河野は特に 関心を示さず、報告を無視して そのまま直言的な言葉を返す 【お前がそこに入ってから何日だ?】 【...三日以上経ってますかね。】 【三日か・・・】 Абсолютная―Øに入ってからの三日程、 林と共に地下施設内で、 何をやっているかよく分からない ツベフォフを見かける度、隆和は 論説委員になる様繰り返し説得を続けていたが、 当のツベフォフは特に大した反応も見せず まるで何を考えているか分からない 【一応、ツベフォフはお前らがその、  Абсолютная--Øで  自分の仕事手伝ってる事には  悪い反応はしてないんだろ?】 【はぁ... 何しろ、このガスプラントには  環境が良くないせいか、  元々人手が足りない様でして・・・】 【そうだろう】 【------?】 まるでАбсолютная--Øの様子を カメラで監視しているかの様に話す河野に 隆和の表情が固まる 【いや、お前らをツベフォフの所に向かわせる前に  俺も、ツベフォフとは何度か  連絡は取ってたんだがな・・・】 【・・・そうなんですか?】 全く聞かされていない話に、 電話越しの河野に疑いの様な物が湧いてくる... 【まあ、お前が話しをしても分かる通り  あのツベフォフはどうも、  話しづらいと言うか...  何を考えてるかよく分からん男でな...】 【まあ、そうみたいですね】 "ブンッ!" 【(・・・・)】 ツベフォフが、車の中でまだ食べ終えていない 大量の食料を車の窓から次々と 道路脇に放り投げていた姿が浮かんでくる.... 【それで、何度かツベフォフと話や  交渉の様な事をする内に、  まともな方法であのツベフォフを  Earth nEwsの論説委員に  招くのは難しいと思ってな・・・】 【は、はあ...】 【...どうも調べたところによると  ツベフォフは今、お前達がいるガスプラント、  Абсолютная--Øで何か作業や  研究の様な事をしてるそうじゃないか・・・】 【みたいですね...  どうもあの施設にはよく分からない    部屋や設備がたくさんありますから。】 【・・・・】 【・・・?】 思っている事をそのまま口にする河野が 言葉を止めたのを見て、思わず 手に持っていた携帯の通話スピーカーを覗く 【そのАбсолютная--Ø...。】 【------...】 【そのАбсолютная--Øは、  少し変わったと言うか・・・  かなり珍しい施設みたいだな。】 【------珍しい?】 【・・・・。  それで、その施設やツベフォフの事を  調べて回ってたんだが、調べてく内に、  どうもその施設にはかなり作業者が不足してる  みたいでな・・・】 【・・・・】 【それに、ツベフォフもそんな事を言ってたからな】 【だから?】 【・・・そう言う訳だから、その施設に、  作業者として人を入れれば  ツベフォフにとってはかなり  利益になる筈だ・・・】 【・・・・】 【ツベフォフに恩を着せれば、Earth nEwsの話も  通りやすくなる....】 【じゃ、じゃあ、始めからこうなるって------??】 【・・・・】 隆和がかすれ声で聞き返すが、 河野はまるで返事せず電話越しで押し黙る 【とにかく、その様子だと、そのまま  ツベフォフの作業を手伝ってやれば  ツベフォフをEarth nEwsの論説委員に  勧誘しやすくなるだろ?】 【い、いや、とは言っても・・・  藻須区輪亜部支社の方はどうするんですか?  編集長の私がこんなに長い間、社を空けたら  仕事が回りませんよ?】 【大丈夫だ。】 【・・・!】 特に、自分がいなくても会社は回るだろうが、 河野に対して自分の重要性を説くために 放った一言を即座に否定された事に、 かなり"不安定さ"の様な物を感じる.... 【藻須区輪亜部支社の方には、礼文・・・・ それに、山根・・・】 【"中根"の事ですか。】 【ああ、そうだ、藻須区輪亜部支社には、  礼文や太田もいるし、  その中根も、この間連絡を取って  支社の方に自分達の仕事の  申し渡ししてたみたいだから、  お前が社を空けても、大した事には  ならんだろ】 【な、中根が】 【・・・とにかく、今、お前達は  ツベフォフに一番近い場所にいて、  その施設に足りない労働力として  ツベフォフに協力してる訳だから、  お前らはかなりツベフォフを説得するのに  向いた場所にいる筈だ】 【-----そうですかね】 【・・・支社の方は礼文と太田に任せるから、  お前や林は、ツベフォフを  説得する事に専念しろ。  ・・・時間は、多少かかっても大丈夫だ】 【い、いや、多少って....  社を出てから、もう  一週間以上経ってるんですが...】 【いや、大丈夫だ。  ・・・とにかく、ツベフォフを説得するまで  藻須区輪亜部支社には戻って来るなよ。  ガチャ】 【・・・・ッ】 【ツー ツー ツー ツー....】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「(このままこのАбсолютная--Øで   ツベフォフの説得を続ける------)」 "バサッ バササッ!" 「(・・・・)」 隆和の手から零れ落ちた トゥルレジェ・FUNBOOK! の間に挟まれていた、 聖三姉妹の三女 "帝響 連音(みかどひびき れね)" の女子高生服姿の栞(しおり)が、 音も無く、無機質の冷たい床へと 思い出の様にバラ撒かれる------.... 「(遥--------...)」
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