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序章
桐谷音子、24歳。
こよなく猫を愛する、自称『猫の下僕』
有名猫ブロガーとして日本中に名を馳せており、海外からのファンも大勢いる。
日々の来訪者数は、国内の一流芸能人並み。コメント数も1,000件に迫る勢いだ。何故、彼女のブログに皆が賛同するのか、これは、観た人でないとわからないだろう。言葉では語り尽くせない、猫達への愛情。そして、閲覧及びコメントへの感謝を常に忘れないところに凝縮されているのだろう、と業界関係者は語る。
強いて言うならば、そういうことらしい。
音子は、動物保護団体や行政の動物センターから保護猫を引き取り、果ては街角に現れる野良猫と呼ばれる地域猫を捕まえては温かい愛情を傾け育て躾をし、人間に慣れたところで新しい家庭へとバトンタッチする過程を、何年も続けている。
朝起きると猫たちの部屋を掃除しごはんの準備をする。昼間は猫じゃらしで猫たちと遊ぶ。そして夕方、また猫たちの部屋を掃除しごはんの準備をする。毎日毎日がその繰り返し。自宅に入ってくる猫と幸せな家庭に嫁ぐ猫が交錯しながら、いつも猫は5~10匹ほどいた。人間に慣れず粗相をする猫もいた。人間からの愛情が欲しくてその辺の壁を傷だらけにする猫もいた。
通常、猫は家に就くなどと言われるが、実際はそうでもない。好きな人間がいればまとわりつき、その人間が別の猫を抱いていると嫉妬する。そうして壁の傷は増えていく。全ての猫に愛情を傾けても、それ以上の愛を求める猫は多い。
音子は、毎日のように猫たちの写真を撮っていた。愛情を注いだ分、猫たちは自然な表情でポーズを決め、猫じゃらしに本気になり、賑やかな場で写真は撮られていく。ヘン顔選手権に出せるような写真も数知れず。
それでも音子は、ヘン顔で笑わせてくれる猫たちが大好きだった。
そうして、猫たちの日常を切り取ったブログが出来上がった。
桐谷音子のブログ「うぇるかむ・音子ハウス」は、国内用の日本語と諸外国用の英語、2種類に分けて記事がアップされており、英語のコメントにも英語で返事をするという、ある意味バイリンガルなブログだった。
本などを出す目的で日常を綴るブロガーも多い昨今。
音子の下にも単行本化の要望コメントが後を絶たぬ中、依然として、単行本など商業ベースでのブログ活動には沈黙を貫き通していた。
今日も、ゆるゆるとした彼女のブログ記事アップは続く。
しかし、ブログという媒体を介している以上、その素顔を見たものは、いない。
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