黒い画用紙

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そう言われて教えてもらったのが、今夜金平糖が降るという事だった。僕は女の子に今夜は楽しみにしておくと返した。心から信じていたわけではない。しかし、彼女がせっかく教えてくれた事を目の前で否定するのは違うと思ったし、何より僕はそういうメルヘンな考えは好きだった。もし本当に金平糖が降って来る事があれば、コップいっぱいに溜めて明日のおやつにでもしようと考えた。 そして夜になった。午後11時、家族が寝静まった後に僕は金平糖を空から貰う事にした。7月の夜は熱気を帯びていて暑かった。虫の音を聴きながら、玄関前の階段に座って、誰も通らない道路を見ていた。寝間着姿で空のコップを持ち、遠くから来る月光のシャワーを浴びていた。 何分たったのか分からない。スマホも腕時計も自分の部屋に置いている。普通に暮らしていれば、時間を気にしたり、電子画面に目を向けるだろう。しかし、女の子が良い事を教えてくれたから、珍しく自然をじっくりと感じている。このチャンスを捨てたくは無かったのだ。しかし、眠くなるのは当然で、僕はそろそろ部屋に戻ろうと思った。そしてドアに触れた瞬間、こつんと音がした。
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