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黒い画用紙
「ねえ、今夜は金平糖が降るよ」
そう言われたのは、僕が弟の作品を見るために幼稚園に居た時だった。ここでは、生徒たちは絵を描くことが推奨されていて、年に2回展覧会の様なものが開かれる。弟はよく家族との思い出を絵にするので、僕は父や母と一緒に必ず出向くのだ。
「良く描けているな」
「良い子ね」
2人の言葉に、弟はとても笑顔になっていた。僕も彼の頭を撫でで、もっと絵を描いてねと言った。そして、他の生徒がどのようなものを絵の題材にしているのかが気になって、隣の教室の絵もみた。すべて見終わった後、その隣の教室に行きそこにあった絵もみた。繰り返していくと、いちばん奥の教室に辿り着いた。
他の園児たちの絵も、弟のものと同じく家族との思い出が殆どだった。真っ白な画用紙に旅行先での風景や、日常のひとコマ、ペットなどが描かれていた。後は、幼稚園の先生や友達に関する絵のみだった。僕は最後の教室を出ようとすると、足元に絵が落ちている事に気が付いた。それを拾うと、真っ黒な背景に惑星や星らしきものが画用紙の上に漂っていた。
僕は近くにあった画鋲を取り、それを壁にはり付けた。子供が描いた割には、やけにクオリティが高いような気がした。惑星の数や色からして、太陽系を描いているのだろう。他の子たちが自分の周りに目を向けている間、この子だけ地球の外を出ている。そのスケールの大きさに僕は感心したし、なによりも絵が綺麗だった。
「そこで何やってるの?」
振り返ると女の子が立っていた。僕は慌ててバランスを崩し手を床に着けてしまった。それが面白かったのか彼女は笑いだした。
「大丈夫?ただ訊いただけだよ?」
「ごめんね。あの絵を見ていたんだ。とっても綺麗だと思ってね」
僕は立ち上がって太陽系の絵を指さした。
「その絵、私が描いたんだよ」
「そうなの?だったらかなりの才能の持ち主だともうよ」
「本当に?みんなそんなにこの絵の事を誉めてくれなかったから、とっても嬉しい」
女の子は心の底から嬉しそうな声を出した。僕は何故褒めないのかが不思議だった。話を聞いてみると、どうも黒い画用紙を使ったり、人を一切描かなかった事が良くなかったらしく、先生から注意されたり、同級生から変だと言われたりしたらしい。
「先生やお友達からはそう言われたかもしれないけど、僕は君の絵を素晴らしいと思っているよ。こういう絵をまた見せて欲しい」
「ありがとう。じゃあ、お礼に良いことを教えてあげる」
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