第陸拾捌話 最後の不葬

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第陸拾捌話 最後の不葬

暗く静まり返った民家が立ち並ぶ通り。 夕方まで辺りに響いていた地域の児童が楽しく遊ぶ声や、住人の主婦たちが井戸端会議で和気あいあいとする住宅街独特の喧騒はすっかり失せ、聞こえてくるのは冬の夜風が「ヒュゥゥゥ」と吹く冷たくて鋭い音のみだった。 そんな、言葉で表すには言葉が思いつかないどうにも不明瞭な道をユウとモナは警戒しながら歩いていた。 「今のところ異常ナシ、でしょうか・・・」 「うん、そうだね。」 互いに目くばせしながらユウとモナは周囲の現状を確認し合った。 正直、『異常がない』という今のこの状況を喜ぶべきかといえば、二人は複雑だった。 異変が起きない、つまり今回の仕事の標的が現れないというのは今日はこの辺りで犠牲者が出ないということが想定されるが、それは同時に自分たちにとって仕事の完遂が今夜はお預けになることも意味していた。 ホッとするような、それでいてどこか不甲斐なさを感じながらユウとモナは通りを見回る。 「アイツ等の方は大丈夫(でーじょーぶ)なんかよ・・・」 メアがモナの口を借りて、しばらくしたところにある別の通りを見回っているセツとカノのことを言及した。 今回は対象範囲が少し広大なため、それぞれの区画を二手に分かれての捜索だった。 「二人ならきっと大丈夫だよ。カノちゃんは頼りになるし、それにセツお姉ちゃんだって・・・」 「ちげぇよ、そういう意味じゃなくてさ。」 ユウがセツのことを言おうとした時、メアが言葉を遮った。 「ユウちゃん、セツさんと何かあったん、ですか・・・」 メアと入れ替わったモナが、バツが悪そうにユウに質問した。 先ほどのセツとのやりとりを堂々と見られ、自分でも今の気持ちを押し殺しているのもいい加減息が詰まりそうだったので、ユウはモナとメアに打ち明けることにした。
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