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セツの心を支配していたのは、尋常ならざる怒りと殺意ただ一つ。
しかし今の彼女にはこの怒りが、自分を口実に無関係な人間を殺したこの屍神か、それとも直接でないといえ無関係な人を巻き込んでしまった自分に向けたものか分からなくなってしまっていた。
この女のせいで人が死んだのか、自分のせいで人が死んだのか?
果たして今の自分は、一体誰を、殺したらいいんだろう・・・
チャキン・・・
そんな軽い音が怒りで朦朧としたセツの耳に入った。
見ると女のこめかみを潰さんとばかりに握っているセツの右腕の肉が女が手にするハサミで切り裂かれているではないか。
腕に走った激痛に、セツの右腕の力が微かに弱まる。
女はその隙を見逃さず、セツの腕を頭からどかすと起き上がりざまに彼女の鼻っ柱に頭突きした。
女はピョンピョンと後ろ向きにしゃがみながら跳ねてセツの間合いから離れた。
「ウウ・・・アアア・・・」
セツは呻き声を発して再び女に飛びかかろうとした。
次の瞬間、ハサミで切られたセツの傷口から大小色鮮やかな花々が咲き乱れた。
「グッ!?ガァァァ・・・」
セツの右腕を、今まで感じたことのない痛みが貫き、彼女は右腕を押さえて苦悶の声を上げた。
『ふぅ。つい肝を冷やしたわ。でもこれで分かったでしょ。調子乗って怒ってばっかだと痛い目見るって♪』
痛がるセツを見て、女は勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らした。
〈切った箇所から花が咲く生け花鋏〉
それがこの屍神の扱う廻具だった。
傷口に咲いた花はその者の血肉に根を張り、精気を糧に花弁を生いらせる。
そうすると宿主は抵抗する気が失せてしまい、身体に力が入らないまま全身を切り刻まれて花で埋め尽くされ死に至る。
花を植えられて、力が入らなくなってしまったセツの右腕がぶらんと垂れた。
『さっきのお返し。今にアタシのお花でいっぱいにしてやるからねッッッ!!』
ハサミを構えた女がセツに向かって突進した。
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