第陸拾玖話 怨の激突

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セツは回避の動きを見せなかった。 女は占めたと思った。 腕から生えた花に精気を奪われてセツが攻撃を避けることができないと直感したからだ。 だが、それは誤りだった。 セツは避けられないのではない。 のだ。 セツはまだ動く左腕を振り上げると、あろうことかそれを屍神が持つハサミの切っ先にぶつけた。 ハサミの刃がセツの左の拳にズブっと入った。 (えっ、コイツ、何で・・・) 予想外なセツの動きに女が目をぱちくりさせていると、セツは彼女のがら空きになった鳩尾(みぞおち)に渾身の蹴りを見舞った。 『ごぷぉ・・・』 重い一撃に女は血を吐きながら吹っ飛びそうになったが、セツは次いでハサミを持つ腕をガシッと掴んで、勢いつけながらぶん回して民家の壁に激突させた。 『ぐはぁ・・・!!』 壁に叩きつけられた女にセツは膝蹴りを食らわすようと向かってきたが女はそれを何とか避けることができ、セツの太ももをハサミで切り裂いた。 「ギッ!?」 右の太ももに付けられた傷から瞬時に花が咲き、セツは痛みで歯を食いしばりながら苦しむ声を漏らした。 『これでもうまともに歩くことはできな・・・アガッ!?』 セツの足の動きを奪ったことを誇らしげに言う女を、セツは彼女の首根っこを掴んで黙らせ、もう一度民家の壁へと叩きつけた。 女の身体が壁にめり込んでがっしり固定されると、セツは彼女の顔面を殴り続けた。 ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ!!、ドゴッ・・・ 鈍い音が壁伝いに断続的に響く中、それに混じって「グチ・・・グチ・・・」と何かが飛び散る音が聞こえる。 それはセツの打撃によって女の脳髄が飛散する音だった。 普通の人間ならば、とっくに頭の原型を留めることはできないだろう。 でも相手はそう簡単に死ぬはずがない、否、もうとっくに死んでいる動く屍で、これでくたばるほどじゃない。
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