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その日、アタシはシトの家に泊りがけで招待されていた。
アタシ達が寝ている時、玄関の方で木が割れる激しい音が聞こえたのでアタシとシトは飛び起きた。
それから間もなく、部屋の戸が開け放たれ、否、蹴り飛ばされて外から目を血走らせた男が乱入した。
『あっ、あなた・・・』
「よぉ、シト。よくもこのオレから逃げてくれたなぁ。」
シトは部屋に押し入った男、すなわち自分の元旦那の顔を見た瞬間、戦慄し歯をガチガチと鳴らした。
「なぁ、オレにダメなところがあったんなら直すからさ。だから頼む。またもう一度いっしょになってくれよぉ・・・」
シトは涙ながらに懇願する男を全力で拒絶した。
すると男は急に無表情となり、身体をプルプル痙攣させた。
「じゃあさ・・・オレと一緒に・・・死んでくれねぇかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
元夫は絶叫しながら小箪笥の上に置いてあった生け花バサミを持ってシトに向かってきた。
アタシは咄嗟にシトの上に覆いかぶさると、奴はアタシの背中をハサミで突き刺した。
元夫は興奮して歯止めがかからなくなってしまったらしく、アタシの背中を何十回とメッタ刺しにし始めた。
背中に走る気が狂いそうになる激痛に耐えられず絶叫すると、目の前に恐怖で言葉が出なくなっているシトの顔が飛び込んできた。
『だい・・・じょう、、ぶ、だよ・・・』
アタシは痛みを必死に我慢して、怯える彼女を励ました。
そして、彼女がか細い声でアタシの名前を呼んだ直後、アタシは気が遠くなり始め、視界がゆっくりと暗転していった。
次に目を覚ましたアタシの目に入ったのは、血に染まった寝室と、呻き声を漏らし、生気が全く感じられない表情をしながらかつて夫だった男の腹を馬乗りになって刺し続けるシトだった。
『シ・・・ト・・・?』
アタシの声に反応したらしく、シトは元夫を刺すのを止めて、ゆっくりと自分の顔を向けてきた。
その顔色はまさしく死人のように青白く、瞳はくらむほどに綺麗な瑠璃色に輝いていた。
変わり果てた親友を目の当たりにしてしまい、どう声を掛けたらいいか分からないアタシを、彼女はそっと抱擁した。
『ア・・・ア・・・』
“良かった。”
全く言葉になっていなかったが、アタシには彼女がしきりにそう言っているように感じられた。
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