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第漆拾弐話 桜路の行先
メイを屍神専用の拘束着で捕縛し、遅れてやってきる協合の者たちに任せたユウ達は斡場への帰路についていた。
彼女たちが歩いているのは川沿いの砂利道だ。
脇には桜並木がずらっと生えており、桜が見頃を迎えれば辺り一面桃色に染まり、それはそれは美しい風景へと仕上がることが容易に想像される。
だが生え並ぶ樹々は花など付けておらず、どれもこれも細々とした枝のみ。
夜空に高々と昇る満月がそのシルエットを照らし出し、殺風景極まりない桜並木をより一層引き立てる。
彼女たちの先頭を、メアが気だるい足取りで歩いている。
ただでさえ疲れているのに、ここから斡場までの長い道のりを静まり返った深夜の中、徒歩で戻ることに彼女は鬱屈とした思いを抱えていた。
しかし、先の戦いでセツが負った傷が結構な重症だったので冬の寒々とした外で休ませるのはいくらなんでも薄情だと言うモナの説得を無視することもできなかった。
かと言って疲労が蓄積した身体を引きづって帰還を長引かせるワケにもいかなかったので、メアは体力を可能なだけ搾り出して一気に帰ろうという魂胆だったので、こうして先頭を歩いている。
そんなメアの後ろを付いていたのはカノだ。
彼女もまた、メア同様に疲れていたが一気に帰ろうとする彼女とは違ってなるべく体力の消費を抑えて無理せず行こうと慎重だった。
カノは自分の前を行くメアが「早く帰ろうぜ!」と言いながら先々行く様子を見て、(あっ、コイツその内バテて動けなくなるな・・・)と悟ったような目を向けていた。
そして彼女ら一行の最後尾にいるのがユウと、彼女に背負われたセツだった。
セツの身体から生えた花は、徐々に枯れてきてはいたが、それでもセツの体力はまだ全回復しておらず、こうしてユウの背中に乗ることを余儀なくされていた。
ユウとセツは未だに会話を交わしておらず、両者の間には重苦しい空気が漂っていた。
「ゼェ、ハァ・・・なぁ・・・ゼェ、ちょっと、ここらで、休もうぜ・・・」
メアが両膝に手を付いて振り向いた。
「ほれ、言わんことではない。出だしから飛ばし過ぎなのだ貴様は。」
カノに注意されて、メアは頬をむくれさせた。
「ま、まあいいじゃない。ちょこっと休もうよッ!ちょうどさ、お茶とお菓子もあるんだし。」
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