第陸拾参話 籠の屍神

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第陸拾参話 籠の屍神

森の中に伸びる苔が生えた石段を、ユウは駆け足で登っていた。 石段は横から見ると結構な勾配があり、常人ならば半分ほど進んだところで息が上がりそうな造形をしている。 ユウも初めてここを登った時は、20段ほど登ったところで息が荒くなってしまい、頂上に到着した時点では汗がビッショリになってしまい、肺が痛くなるほど呼吸が絶え絶えになってしまっていた。 そんなユウだったが、現在はこの急な階段を軽やかな足取りでヒョイヒョイと登っている。 やはりというモノは人間を幾分か丈夫にしてしまうのだろうか。 しかしユウは、頂上まで登り切ったのに関わらず、速駆けを一向に緩めようとしなかった。 目の前に建つ古風だが奥ゆかしい木材とモルタル造りの、まるで旅館のような建物の暖簾を勢いくぐり、ユウは中に入った。 この場所は斡場(あつば)。 ユウ達屍葬士たちが依頼を受ける場所であり、また同時に彼らの宿泊施設だ。 「あっ、ユウさんおかえりなさい!!」 中に走り込んできたユウを見て、斡場の受付人・ハキは声を弾ませた。 「ハキさんただいま!」 自分を迎えたハキに、ユウも元気な声で挨拶した。 「飛び込みの依頼、お疲れ様でした。お休みしてたのに急に頼み込んでしまってすみません。」 「いえいえ!せっかく私のところに来たのに断ってしまったほうが申し訳ないですからっ!」 ユウの誠実な言葉に、ハキは少し居た堪れなくなってしまった。 最近、ユウの評判を聞いて屍葬を頼み込む客が急増しており、日々奮闘する彼女に何かしてやりたいとハキは常々思っていたからだ。 「今日はまだご依頼は入ってないですからゆっくり休んで下さい。あっ、そうだ!ちょうど昨日イチゴ仕入れてきたので、また作ってきます!!」 ハキは急いで裏の台所に向かっていった。 ユウは彼女のに目を輝かせながら期待して、傍のテーブルに落ち着いた。
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