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部屋の右端に置かれたこじんまりとしたテーブルには、それぞれの茶と菓子が用意されている。
セツにはユウの大好物が。
ユウにはセツが作ってくれた、包丁で細かく切ったミカンを小麦粉で練り混ぜて揚げた、一口大のボール状のケーキみたいなお菓子が出されていた。
「いただきますっ!」
ユウが三つある四つある中の一つを手で掴み取ると、それをパクっと口の中に放り込んだ。
「どう?お口に合ってくれたかしら?」
「セツお姉ちゃん!これすっごくおいしいよッッ!!外はカリっとしてて中はフワフワで、ミカンの甘さが際立っててさ!」
「フフ、気に入ってくれたみたいでよかった。」
自作の一品をユウに褒めてもらい、セツは満足そうな微笑みを向けた。
「このお菓子ね、私が小さい頃にお母さんがよく作ってくれたんだ。私これがすごく好きでね、作り方を聞いてよくあの子にも作ってあげ・・・」
そう言いかけた時、セツの表情が暗く落ち込んでしまい、一瞬黙りこくってしまった。
「ん?どうしたの?」
セツが浮かない表情をしてしまったのが心配になってしまい、ユウは菓子を食べる手を止めた。
「ううんっ。何でもないの。」
ユウを心配させまいと、セツはどうにか気持ちを切り替えて、焦りながら彼女にニコッと笑ってみせた。
「それで、昨日はどんな依頼に行ってきたの?」
セツに昨夜の仕事のことを唐突に聞かれると、今度はユウの方が一瞬黙りこくってしまった。
「・・・・。屍神になったお姉ちゃんを探してほしいっていう、女の子の・・・」
ユウから聞かされたセツは思わずドキッとした。
それは三ヵ月前までの自分とユウ、そして他ならぬ彼女自身の境遇に近いものだったからだ。
「それで、その子のお姉さんは見つかったの・・・?」
「うん。見つかった・・・その人ね、妹さんのことを思い出して、泣きながら、謝ってた・・・」
「そう・・・」
話に出てきた屍神になった姉の気持ちを、セツは苦しいほどに解っていた。
衝動に身を任せ、醜い人殺しの化け物になった姿を妹に見られてしまうのは、とてもじゃないが耐えられない。
でも、妹に謝ることができて彼女はまだ幸せだとセツは思った。
何故なら、彼女にはもう謝る妹がどこにもいない、否、自分の手で消してしまったからだ。
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