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どこを見ても目が痛くなるほどの青々とした田圃。耳を塞いでも聞こえる蝉の声。
私たちにとってこの町は窮屈だった。
小学生の頃にはもう知らない人も、場所もない町は退屈だった。
だから約束した。
二人でもっと広い街に行こうと。
卒業してもこの町に残ると言ったとき美弥は悲しそうな顔をしていた。
私たちはあれから三年生になって、互いに進路を決めなければならなかった。
美弥はいつも自分の気持ちを隠そうとする。わかりやすいからバレバレだった。バレバレだけど、どうしようもないから、気づいていない振りをした。
二年前に私の母は亡くなった。大黒柱の父とあまり動けない祖母と私を置いて。
私がこの家にいないとダメなんだと悟った。
だから、行けない。
美弥ちはいつも一緒にいたから、このことは知っている。その上で私に来てほしいと言ったのだろう。
それが意味することがどういうことか。わからないほどもう子どもじゃなかった。
仕方のないことなのだ。
私には私の、差名には差名の。そういう人生がある。
「だから、わかって?」
小さな子どものわがままをやんわりと否定するように、優しく諭す。美弥は頑固だからあまり効果はないかもしれない。
でもわかってほしい。
美弥も大切だけど、家族も大切で。
そこに順番はない。
うんと考えて、悩んで、悩んで、ようやく出した答えなのだ。
これが正しいとは言いきれない。
できるわけがない。
でもそうするしかない。
そうやって折り合いをつけて、私は大人になる。
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