赤備え

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 赤備えと呼ばれる武士たちがいた。  その数、およそ百。決して多くはない。  しかし彼らは、ひとりひとりが無双の武芸者であり、一騎当千の猛者であった。  彼らは斬り込みからの乱戦を得意とし、ひとたび敵陣に討ち入れば、誰も止めることはできなかった。  彼らは、元服の際、真白の小袖を授けられる。  戦の際、彼らは必ずこの小袖を着て出陣した。  戦が終われば、彼らは返り血で真っ赤に染まっている。  戦を重ねるほど、彼らの小袖は深く深く染まっていく。  朱に染まるは武勇の証。戦い抜いた強者の証。  そうして、朱に染まり切った小袖を纏い、なおも戦場に臨む彼らは、いつしか自らを赤備えと名乗った。  誰よりも勇猛で誰よりも頼もしい彼らを、親しい者たちは、賛美と畏敬を込めて赤備えと呼んだ。  ――満身を血に染めて(ほまれ)とする彼らを、敵たる者たちは、恐怖と侮蔑を込めて血狂いと呼んだ。
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