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両断せんと横薙ぎに迫り来る槍の刃を、あきは刀を立てて受けた。
腕力の差は歴然。受け止めるつもりはない。
あきは受けると同時に横っ飛びに跳んだ。わざと吹き飛ばされることで槍の威力を殺すとともに、間合いを取って仕切り直す。
その隙に、相手も槍を構え直した。槍の穂先をあきの胸へと向け、じりじりとにじり寄る。
槍の間合いに入る直前、あきは刀で相手の槍を打ち上げた。槍の穂先が上へと飛び上がるその一瞬を突き、あきは一気に間合いを詰める。
相手も黙って見てはいない。打ち上げられた槍をそのまま振りかぶるや、あきの脳天目掛けて、剛速で振り下ろす。
唸りを上げて迫るそれを、あきはすんでのところで体を開いて躱した。槍は地面を穿ち、その穂先の半分ほどが土に埋める。
躱された槍を引き戻さんと、相手が腕に力を込めたそのときには、あきの左足が地を突く槍を踏みつけていた。
そのまま、右、左と、槍の上を駆け上がったあきは、刀を上段に振りかぶり――頭に竹を打ち込んだ強烈な音が響き渡った。
したたかな面の一撃を喰らい、槍の主はぐらりとよろけて尻餅をつき、
「あき! 加減をせぬか! まったく!」
打たれた頭をさすりながら、あきに罵声を浴びせた。
「加減はしました。加減せねば、叔父御の頭は割れておりますよ」
竹刀を提げたあきが、叔父御――是清を見下ろして言う。
「ふん、相も変わらず口の減らぬ娘よな」
大木槍を支えに立ち上がった是清が、あきを見下ろして言う。
「まことに強くなったものよ。太郎次郎もなかなかであったが、あきには到底敵わぬわ」
「まだまだですよ。私など」
「否々。女子の元服など前代未聞じゃが、あきであれば、みな納得しような」
謙遜するあきを見て、是清が豪快に笑う。
「しかし、このようなときに元服とあらば、おそらく初陣もすぐであろうな」
「もとより覚悟の上。亡き兄たちと三郎に代わり、存分に戦う所存にございます」
毅然と答えるあきの顔に、恐れや偽りはない。
「あっぱれな心掛け! 初陣の暁には、儂の槍働きを間近で存分に見せてやろう。楽しみにしておれ」
槍の石突でどんと地をつき、是清が胸を張る。
「叔父御に負けぬよう努めます。さて――もう一合」
「応。次は負けぬぞ」
竹刀を正眼に構えるあきに、是清が槍を向けて応えた。
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