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是綱の屋敷。その大広間に、是綱の一族郎党がずらりと並んだ。
みな正装に身を包み、刀を佩き、あぐらをかいて背筋を伸ばしている。誰一人として口を利く者はおらず、主役の到着を今か今かと待ちわびている。
しばらくして、あきが現れた。
広間に入り、左右に並ぶ面々の視線を一身に受けながら、しかし怖じず臆せず、堂々と歩みを進める。
上座に座る是綱の前に至ると、あきは座して板敷に手をつき首を垂れた。
「あき、参りました」
「うむ、面を上げよ」
あきを娘としてではなく、ひとりの武士として見ている是綱の声は、厳粛であった。顔を上げたあきの表情も、いつになく引き締まっている。
「これより、元服の証を授ける」
是綱が、右手に置かれていた一着の小袖を手に取り、あきへと差し出した。
上質の絹で織り上げられた真白の小袖。あきはそれを両手で恭しく受け取り、眼前に捧げた後、傍らにそっと置く。
是綱が、左手に置かれていたひと振りの太刀を手に取り、あきへと差し出した。
「銘は竜胆。そなたの守り花じゃ」
鞘は艶光る黒塗り、柄は濃い紫で拵えられた業物。あきはそれを両手で恭しく受け取り、眼前に捧げ、鯉口を切ってわずかに抜く。
覗く白刃をじっと見つめるあきに、是綱がさらに言う。
「今日よりそなたは、我らとともに戦場に臨む身となる。強くあれ。凛々しくあれ。気高くあれ――我が娘よ」
言い終えて、是綱は座したまま自身の刀をわずかに抜いた。それに倣い、並み居る一同も刀に手をかけ、2人と同様に抜く。
しんと静まり返る中、あきが竜胆を鞘に納めた。鍔と鞘とが打ち合わさり、高く澄んだ音を響かせる。
続いて是綱が、そして一同が、次々に刀を鞘に納める。金属を打ち鳴らす音がいくつも響いた後、広間に再び静寂が訪れる。
あきは竜胆を帯に差すと、すくと立ち上がり、一同を顧みた。凛としたその立ち姿を見た是綱が、満足そうに大きく頷く。
「これにて元服は相成った。みな、あきのこと、よろしく頼むぞ」
是綱が締めくくり、応、応と、一同の力強い答えが響き渡る。
その威勢に――あきは心身の芯を震わせた。
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