赤備え

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「もう初陣なのですか」 「ええ」  心配顔の三郎に、あきが頷いた。まだ熱があるのだろう、床に臥せったままの三郎の顔は火照り、少し汗ばんでいる。  ――あきの初陣は、元服のわずか三日後であった。  夜明け頃。まだ薄暗いが、あきはすでに戦装束となっていた。  元服で授かった白の小袖を纏い、手足には鋼の手甲足甲を、額には鉢金を巻いている。他の赤備えと同様、動きやすさに重きを置いた軽装で、鎧の類は身に付けていない。  出陣までおよそ半刻。屋敷の中は、戦の用意をする赤備えたちで慌ただしくなっている。 「ごめんなさい、姉上。僕がもっと」  そこで、三郎がごほごほと咳き込む。あきは三郎の肩に手を添えると、咳が治まるまで優しく撫でた。 「気にしないで。覚悟の上よ」  三郎の咳はすぐに治まった。心配顔のまま、三郎があきの顔を見つめて問う。 「姉上は怖くないのですか」 「三郎、戦に出る者にその言葉はいけないわ」 「あ、ごめんなさい姉上」  三郎をたしなめつつも、あきはその問いに答える。 「緊張はしているけれど、怖いというわけではないわ。父様や叔父御も一緒だから」  嘘ではなかった。恐怖心はない。かといって(はや)や勇み足もない。自分でも不思議なほどに、あきの心は静かに澄んでいた。  是綱や是清が一緒だと言われ、三郎は少し安心したのだろう。顔に浮かんでいた心配の色が薄らぐ。 「そうですね。わかりました。姉上、ご武運をお祈りしています」 「三郎も、私を出迎えるために早く元気になりなさい」  はいと頷く三郎の額を、あきは優しくそっと撫でた。
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