7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
敵には備えがあった。
幾度も苦汁を嘗めさせられた赤備えの奇襲に備え、両翼に弓隊を配していた。
疾走する赤備えを認めるや、弓隊は列を整え、弓を構えて矢を引き絞った。
赤備えは疾走を続ける。
――百五十歩。
弓隊が一斉に矢を放つ。唸りを上げて、無数の矢が雨のように飛来する。
赤備えは疾走を続ける。
――百歩。
放たれた矢が赤備えに襲い掛かる。
赤備えに、誰ひとりとしてそれを避ける者はいない。
避ければ他の誰かに当たる――故に赤備えは、自らを貫かんとする矢のみを、ひとつとして余さず捌く。
獲物で叩き落とし、あるいは手甲で弾き落とし、あるいは足甲で蹴り落とす。倒れるのは幾人かのみ。
赤備えは疾走を続ける。
――五十歩。
足を止めぬ赤備えの疾さに、弓隊は二の矢を放つ暇がない。
敵は陣立てを入れ替え、弓隊を内に取り込み、代わりに槍隊を押し出して槍衾を組んだ。
赤備えも陣立てを変える。それぞれ大身槍、大薙刀、金砕棒を抱えた三人の力者が一歩抜け出て先陣を切り、他の者が後に続く。
赤備えは疾走を続ける。
――五歩。
針山のごとき槍衾――その一部が、大身槍に断ち切られ、大薙刀に薙ぎ払われ、金砕棒に叩き折られ、都合三箇所に穴が開く。その穴へ、後に続く赤備えたちが殺到した。
前の敵から斬り倒しては踏みつけ、突き殺しては蹴り飛ばし、殴り殺しては横へと押しやり、奥へ奥へと切り込んでいく。
たちまち、あちこちで血しぶきが上がり血煙が舞う乱戦となった。
最初のコメントを投稿しよう!