赤備え

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 敵には備えがあった。  幾度も苦汁を嘗めさせられた赤備えの奇襲に備え、両翼に弓隊を配していた。  疾走する赤備えを認めるや、弓隊は列を整え、弓を構えて矢を引き絞った。  赤備えは疾走を続ける。  ――百五十歩。  弓隊が一斉に矢を放つ。唸りを上げて、無数の矢が雨のように飛来する。  赤備えは疾走を続ける。  ――百歩。  放たれた矢が赤備えに襲い掛かる。  赤備えに、誰ひとりとしてそれを避ける者はいない。  避ければ他の誰かに当たる――故に赤備えは、自らを貫かんとする矢のみを、ひとつとして余さず捌く。  獲物で叩き落とし、あるいは手甲で弾き落とし、あるいは足甲で蹴り落とす。倒れるのは幾人かのみ。  赤備えは疾走を続ける。  ――五十歩。  足を止めぬ赤備えの疾さに、弓隊は二の矢を放つ(いとま)がない。  敵は陣立てを入れ替え、弓隊を内に取り込み、代わりに槍隊を押し出して槍衾(やりぶすま)を組んだ。  赤備えも陣立てを変える。それぞれ大身槍、大薙刀、金砕棒を抱えた三人の力者が一歩抜け出て先陣を切り、他の者が後に続く。  赤備えは疾走を続ける。  ――五歩。  針山のごとき槍衾――その一部が、大身槍に断ち切られ、大薙刀に薙ぎ払われ、金砕棒に叩き折られ、都合三箇所に穴が開く。その穴へ、後に続く赤備えたちが殺到した。  前の敵から斬り倒しては踏みつけ、突き殺しては蹴り飛ばし、殴り殺しては横へと押しやり、奥へ奥へと切り込んでいく。  たちまち、あちこちで血しぶきが上がり血煙が舞う乱戦となった。
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