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あきも、後れを取らず斬り込んでいる。
最初の敵は、先ほど矢を放った者だろう、いまだ弓を手にしている雑兵だった。
迫りくるあきの姿を見て、慌てて弓を捨て刀を抜こうとするが、それはあまりにも遅すぎた。
あきの竜胆が一閃し、狙い違わず、その切っ先が敵の喉笛を切り裂く。
血の噴き出す喉を抑え、口をぱくぱくと開きながら敵が倒れる。
竜胆を血払いし、あきは新たな敵を探す。
次なる敵は、すでに刀を抜いていた。胴丸を着込んでいるが兜はない。これも雑兵のようだった。
敵は、間合いの外にもかかわらず刀を大上段に振りかぶると、あきの方へ駆けながら振り下ろしてきた。
あきの目から見て、その構えはあまりに拙く、その振りはあまりに遅い。
敵の一撃を、あきは体を開いて難なく躱し、そのまま敵の側方へ滑り込んだ。そして、すれ違いざまに竜胆を振るい、刀を振り下ろしたままの無防備な喉を抉って仕留める。
前のめりに倒れる敵を顧みもせず、次なる敵を探すあき。
次なる敵は名のある武士のようで、甲冑と兜で身を固めていた。両手で大太刀を構え、その切っ先をあきへ向けている。
あきは躊躇なく間合いを詰めた。いかに剣技に優れようと、あきは女子である。縦横に振るわれる敵の大太刀を正面から受け止めようとはせず、躱し、受け流し、いなして凌ぐ。
打ち合うこと数度、あきは防御し損ねて片膝を付いた。好機と見た敵は大太刀を振りかぶるや、一息に振り下ろした。
――狙い通りの一撃を、あきは竜胆を横に構えて受け止める。大太刀と竜胆がぶつかり合い、刃の間に火花が散る瞬間、あきは脱力するとともに身をひねった。
竜胆を大太刀に弾かれながら、あきが体をぐるりと回転させる。
弾かれた竜胆の切っ先が円を描き、唸りを上げて敵の頭へ襲い掛かる。
剛速で放たれた峰打ちの一撃が、敵の側頭部を強烈に打ち付ける。
兜ごと頭を叩き割りそうなその一撃を受けた敵は、ぐらりとよろけて膝を付く。身動きすらままならない。
あきは竜胆を振るい、その喉を切り裂きとどめを刺す。
どさりと地に伏す敵を一瞥し、死闘を制したあきは、さらなる敵を探す。
――そうして、ひとり斬っては敵を探し、また斬っては敵を探す。
敵を仕留めるたびに、血しぶきが上がるたびに――あきの心は高揚していく。
ひとりの武士として戦える喜び。
赤備えとしてみなと戦える喜び。
敵を打ち倒して役に立てる喜び。
鍛えた技を存分に振るえる喜び。
そして――自身の力を誇示することができる喜び。
返り血を浴びるたびに、その身を血に染めるたびに――あきの心は高揚していった。
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