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赤備えの斬り込みからおよそ半刻、勝敗は決した。
手当たり次第に斬り進む赤備えを、敵は止めることができなかった。
陣形を無茶苦茶に食い破られた敵勢は浮き足立ち、その間に体勢を立て直した本隊が一斉に反撃。敵は食い止めきれず、散り散りになって敗走した。
赤備えは、存分に敵を討ち果たした。誰しもが、五人十人それ以上の敵を討ち取った。
あきも、見事に初陣を果たした。
倒した敵は、十を超えてからは数えていない。自身は傷ひとつ負うことなく、多くの武士雑兵を倒した。
戦を終えた赤備えたちが、戦場で円を作っていた。その中心にはあきがおり、その両翼に是綱と是清が立っている。
「みな、よく戦った。十二分の武働きじゃ。主も喜んでおられる」
是綱が労いの言葉をかけ、赤備えたちが応と答える。
「我が娘、あきも存分に戦った。見よ、この姿を」
是綱はあきの背に手を置くと、その姿をみなへと示した。
あきがきている小袖。戦の前には真白だった小袖が、爛れた朱色に染まっていた。ただ一戦のみで、襟から裾まで、肩から袖まで、唯一背中を除いた満身のことごとくが血の赤に染まっている。
「初陣にてこれほどの働き、後にも先にも誰もおらぬわ。我が娘ながらまこと末恐ろしいことよ」
是綱の冗談交じりの物言いに、是清が、赤備えたちが軽快に笑う。あきも口角を上げて不敵に笑った。
「みな、我らの仲間、新たな赤備えの誕生じゃ。存分に讃えよ!」
割れんばかりの歓声が、戦場跡に巻き起こった。赤備えたちが、拳を振り上げ、獲物を振り上げ、全員があきの武勇と初陣を讃えた。
その賛辞に、その栄誉に、その喜びに――あきは身を震わせた。
誰もが、その身に血を浴びていた。
誰もが、その身を赤く染めていた。
――誰の小袖も、新旧大小異なる敵の返り血で、赤備えを成していた。
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