終ワラナイ夜間警備

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 当時の忌一は十九歳、とある小さな警備会社の求人に応募した。  面接会場の事務所はかなり小さく小汚い印象で、正直会社の将来が危ぶまれるほどだったが、未成年でも応募できる割には給料が良く、珍しくてつい飛びついたのだ。  採用担当の男性は、渡した履歴書へ目を通すのもそこそこに、「体は丈夫?」や、「遅刻とかしない方?」と質問し、最後に「霊感とか持ってないよね?」と訊いてきた。 「何でですか?」 「ゴメンね、変なこと訊いて。気にしないで。ぶっちゃけ五体満足で遅刻さえしなければ誰でもいいのよ。松原君が応募してくれて本当助かった!」  そう言って両肩をポンポンと叩かれたが、気にしないでと言われれば余計気になるし、嫌な予感しかしない。が、この時は前職の人生初めてのバイトが一ヶ月でクビになり、正直焦っていた。皿洗いのバイトだったが、突然現れる霊や異形に驚き、いくつも食器を割ってしまったのだ。  今度こそはと、自分の能力のことは伏せ意気込んでいた。質問もそこそこに一枚の紙を手渡されると、そこには警備するビルの住所と勤務時間が書かれており、「詳しいことは現地でベテランの人が教えてくれるから。二人で頑張って」と言われ、事務所を後にした。  そのビルは小さな製菓会社の本社で、街中で埋もれるように立つ四階建ての細長いビルだった。仕事内容は、その会社の退社時刻から出勤時刻、午後六時から翌朝の午前八時までのビル内を警備するというものだった。つまり夜間警備だ。  その日は初出勤ということもあり、忌一の身体は若干熱を帯びていた。前日からの緊張ですぐに寝付けなかったせいなのか、とにかく初出勤日に休むわけにはいかないと、気だるい身体にムチ打って予定通りに目的のビルへと向かった。  午後五時半、勤務時刻の三十分前にビルの正面玄関へ到着すると、中から製菓会社の社員が一人二人と退社するのが見えた。そしてそれに続くように、五十代くらいの警備服姿の男性が懐中電灯を片手に現れた。 「あの! 今日からお世話になる松原です」 「あぁ、君が今日から入る新人君か。こりゃまた随分若いな……」  求人には『高卒以上』と書かれており、特に年齢制限が無かったので他にも自分のような十代のアルバイトがいると思っていたが、この男性の驚き方からすると珍しいようだ。  男性は柔和な笑顔を見せながら『田口』と名乗った。そして正面玄関からビルに入り、廊下を真っすぐ進んで突き当たりに小さな裏口扉があるので、そのすぐ左手横の警備室で待っていてくれと。 「警備室の奥に小さなロッカールームがあるから、そこで警備服に着替えちゃってくれる?」 「わかりました。田口さんは今からどこへ?」 「ちょっと夜食を買いにね。仕事については後で詳しく説明するよ」  そう言って田口は、街中へと消えて行った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加