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言われた通り警備室へ入ると、そこは四畳半程の小さなスペースで、壁沿いに置かれた机の上には四つのモニターがあった。各階の廊下に監視カメラが設置されているらしい。警備室にはもう一つ扉があり、奥の小さなロッカールームへと繋がっていた。
ロッカーで採用時に貸与された制服へ着替えると、何だか形だけでも警備員になれた気がして急に背筋がピンと伸びる。帽子を被ると益々それらしく見えるので、ロッカー扉の小さな鏡でいろんな角度から自分を覗いた。制服や帽子の効果か、男前度が三割増しした気さえする。
「いやいや、仕事仕事」
警備室へ戻ると、既に田口が戻っていたのか、モニター前に警備服姿の男が座っていた。
「思ったより早かったですね」
そう声をかけながら、空いている隣の席へ座りつつ振り返ると、そこには三十代くらいの見知らぬ男性が座っていた。
「え!? 誰!?」
「おや、君は新人君かい?」
自己紹介をすると男性は『山田颯太 』と名乗った。訊いてもいないのに漢字でどう書くのかまで説明し、「わからないことがあれば何でも訊いて」と笑顔を見せる。よく見れば髪は茶髪で、パーマまでかけていた。
山田は大学卒業後から警備会社に正社員入社しており、十年以上のベテランだ。ここの警備内容は、午後六時から一時間ごと交代で見回りをするというもので、一人が見回りをしている間はもう一人がここのモニターで異変が無いかどうかを監視する。そして午後八時以降は正面玄関を閉め切るので、居残りの社員が裏口を通ったらチェックするようにとも教えてくれた。
「今日って警備員は三人なんですか?」
「君、面白い眼してるね。早速見ちゃうんだ」
「え?」
「このビルね……出るらしいよ、コレが」
そう言う山田の手元は、いかにも「うらめしや~」と言わんばかりだ。
聞けばこのビルは、深夜になると警備員の霊が現れるのだという。目撃情報が絶えないので、ここの警備をするとすぐに皆仕事を辞退してしまうらしい。
それでやむなく求人募集をしたが、ネットの掲示板でその噂が広まり、応募自体もなかなか集まらなくなったという。ついには年齢制限も外し、「五体満足で遅刻しない人なら誰でもいい」となったようだ。
「まさかさっきの田口さんて……」
「あ、そろそろ六時の見回りだ。俺が行くから忌一君は七時ね。それじゃモニターチェックよろしく」
そう言って山田は警備室を出て行った。暫く言われるままにモニターを凝視していると、コンビニの袋を下げた田口が帰ってきた。
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