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「た……田口さん!?」
「待たせたね。レジが込んでてさ……」
田口は机の空きスペースに買ってきたカップラーメンや弁当を並べる。弁当はレンジで温めてきたのか、蓋を開けると湯気が立ち上っていた。あまりにもリアルなので、一度目を擦ってみる。
「ゴメンね。夕飯食べそびれちゃって……仕事の話は食べ終わってからでもいいかな?」
「それはいいですけど……、さっきもう一人の方から仕事内容聞いたんですよね」
「もう一人?」
ちょうどお箸を割ったところで田口の顔色が変わり、一時停止してしまった。
「松原君、もしかして君……ネットの掲示板とか読んだ?」
「読んではないですけど……」
「でも知ってるのか。君は幽霊とか信じる人?」
「う~ん……どうでしょう?」
「私は見たことないんだよね、信じてないから。だから大丈夫だと思うよ、いないと思えば」
そう言って田口は、お弁当のご飯を大きな口で頬張る。
(でも田口さんが霊だったら? だけどまるで生きてるみたいな口ぶりなんだよな……ご飯も食べてるし。もしかして二人とも生きていて、新人の俺をからかってる?)
その後も田口はもう一人の警備員に触れることなく、夕飯を食べ終わると見回りの仕方について、ビルの見取り図にボールペンで経路を書いて細かく教えてくれた。「霊の存在を信じていない」ときっぱり言われてしまうと、その後も山田については訊き辛く、仕事に集中するしかなかった。
見回りは、一時間かけて各階の部屋と建物周辺を見る。周辺と言っても両脇は別のビルが隣接しているので、正面玄関前と裏口前の駐車場を見回るだけだ。このビルには地下階も存在するのだが、そこはほぼ倉庫となっており使わない物や粗大ごみで埋まっているだけなので、見回らなくてもよいとのことだった。
七時になるといよいよ実際に見回りをする番だ。モニターをチェックする田口を警備室に残し、懐中電灯を持って暗い廊下へと一歩踏み出した。頼りない光一つで暗闇を照らし、各部屋に誰もいないかを確認していく。
(山田さん、警備室に戻ってきたかな? 凄く気になる)
おでこを触ってみるとまだ熱っぽさが残っており、暗闇の中の至るところで何者かの気配を感じた。そしてまだ社内に居残っている社員も少なからずおり、トイレの入り口などで出くわすと、心臓が飛び出そうなくらい驚く。
(ダメだ……今日は生者と死者の区別がつかない)
普段なら、明るいところで見れば色のトーンの違いですぐにわかるのだが、調子が悪いせいかすべての色が微妙にぼやけて見える。せめて同じ空間にいれば見比べることも出来るのだが、田口と山田は同時に現れてくれない。
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