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まだ息は白く、肌寒さは残るがちらほらと梅の花が咲き、その蜜を吸いに小さなメジロたちが訪れ始めた頃、彼は自室のコタツで何やらボールペンを走らせていた。
真新しいその紙には横長のマス目がいくつもあり、その左上上部の氏名欄には『松原忌一』と書かれている。下段には生年月日の記入欄があり、『満28歳』とも。
「忌一よ、何を書いておる?」
コタツの上で花咲じじいのような恰好をした手の平サイズの老人が、その紙をのぞき込んで呟いた。彼は忌一の使役する式神、“桜爺”である。
「あぁ…これ? 履歴書だよ、履歴書」
「履歴書とな?」
生年月日のすぐ下には連絡先の記入欄があり、そのさらに下には『学歴・職歴』の欄が続いていた。学歴には高校までの在籍期間が、そして職歴には全く統一感のない勤務先名が並んでいる。
「何故こんなもの書いておる?」
「この前、茜から『職に就いてない男とは付き合えない』って言われたから……」
忌一には松原茜という四歳下の従妹がいる。彼女とは血が繋がっておらず、長年の好意をはっきりと伝えたところ、メールをいつも以上に既読スルーされ、『真剣なんだけど』と食い下がったら、そのような返信があった。
「度々頼みごとをきいておるではないか」
「あぁ、不動産屋の依頼? あれはお小遣い程度のバイトだし、職に就いてるとは言えないな」
茜は小咲不動産という小さな不動産屋に勤めている。一度そこの物件にまつわる怪奇現象を解決したところ、事故物件に住まわされたり、遺品整理を手伝わされたり、謎の騒音問題を解決したりと、ちょこちょこ怪奇現象絡みの依頼を請け負っていた。
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