【終章】2つの魂

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地から離され、暴れる桜。 しかし、さっきまでのパワーはない。 「何かある❗️」 豊川が指さす先。 桜の根が、何かを絡めて抱いている。 すると…そのモノが光を放ち始めた。 絡まった根が、ずるり…ずるりと、解けていく。 「阿良宮…美里愛…」 まるで生きているかの様な姿で、一世代前の制服を着た彼女がいた。 8年間閉じていた瞳が、ゆっくりと開く。 優しげで寂しげな瞳。 (如月遥香さん…ありがとう) さっきまでのボヤけたシルエットが、如月の形に変わっていく。 (皆さん。私を見つけてくれて…ありがとう) その声は全員に聞こえた。 T2が、桜の木を元に戻す。 「スゲェなこりゃ…」 再び枝が騒めき、血の花びらが渦を巻く。 紗夜の右手から黒いが放たれ、直ぐに少女へと変貌した。 その目が紗夜を見る。 「みんな離れて❗️」 その意思を感じて紗夜が叫んだ。 校舎に囲まれた空間に、激しい風が巻き上がる。 「クソッ…紗夜さん手を!」 伸ばした豊川の手を掴む紗夜。 「うっりゃあー❗️」 「ヅガーン💥」 T2が校舎の壁を、体で砕いて破った。 「皆んな早く中へ入れ❗️」 豊川の腕を握り、彼に掴まっている紗夜と胡桃もろとも、中へと引き込んだ。 真っ赤な渦の中に、が居た。 悪霊と化した、加賀美真湖の怨念。 「グッ…」 余りの恨みの強さに、紗夜の心が(きし)む。 「見るな紗夜!人が耐えれるものじゃねぇ❗️」 豊川が紗夜を隠す様に庇う。 その怨念の前に、如月遥香、阿良宮美里愛、悪魔の少女、そして魔力を回復させた七森華奈が立ちはだかる。 「ナゼ…邪魔をする?ナゼ、恨まない?私は憎い。殺しても殺してもまだまだ足りない。オマエたちは復讐もできないほどに、弱いのか?」 悪霊が(あざけ)る様に問う。 「復讐の先にあるのは…虚無。虚しさと孤独の果てに、何が得られる?…何も満たされない憐れな自我に気付かないのか?」 問いに問いで反撃する七森。 復讐のために、自ら魔女となり人を殺した。 その愚かさに気付かされ、罪を背負って生かされるKANNA(カンナ)の、己への怒り🔥。 「憐れですね…本当に、加賀美真湖。ごめんね〜。私にはあなたの気持ちなんて、これっぽっちも分からない。分かりない」 「遥香…」 胡桃は如月の苦しみを知っている。 木下からの迫害など、取るに足らないかすり傷であること。 本当の苦しみ。 自分の両親が犯し、隠した罪。 そして、その過去を引きずったまま生まれた自分の存在が許せなかった。 やり場のない絶望を抱き、苦しんだのである。 同じ境遇の胡桃だからこそ、分かる虚無感。 同調したかの様に遥香の目に炎が燃え上がる🔥 「私が死んでまで恨みを晴らしたいと思ったのは。…加賀美真湖、オマエだっ❗️」 「な…なに⁉️」 桜が逆風に舞い散った。 「少しは気付いたか?己の愚かさに。私は…オマエに殺された坂上紫乃譜に、ふざけて振り飛ばされ、たまたま開いていた窓から、今オマエが立っている穴へ落ちた」 「やはり事故…」 「イ・ヤ、チ・ガ・ウ」 紗夜の心を、少女が否定した。 「あの時…私はまだ生きていた」 悲しげに語る阿良宮美里愛の魂。 「そんな…まさか⁉️」 「マジかよ…」 「私は…生きたまま埋められた。土の匂い…土の味。虫に這われ、生きたまま食われる(みにく)さと悔しさ。そこにオマエが突き刺され、さらに埋められ…私を喰らいながら育った」 「酷すぎる…」 紗夜でなくても、阿良宮の恨みは分かった。 「私を殺したのはオマエだ❗️8年間…だから8年間、今日この日まで、絶対に花は咲かさせなかったんだ❗️」 一際(ひときわ)強く、怒りに満ち溢れた灼熱の(ほむら)が燃え上がる🔥。 「加賀美真湖!オマエだけは、地獄の果てのその先までも、絶対に逃がさない❗️この先、百年でも千年でも呪い、怨み続けてやる❗️」 同じ恨みを持つはずの2人。 その思惑(おもわく)が、真逆と知った時。 悪霊に、あからさまな動揺と、隙が生まれた。 「その花はオマエじゃない!咲かせたのは、この…私だ❗️」 「ボワッ🔥」 咲き誇る血の花びらが、一瞬にして燃え上がり、加賀美真湖の(けが)れた魂を(むしば)む。 「そんなバカな⁉️…やめろ…ヤメローッ❗️」 燃え上がる炎が🔥渦を巻き始め、加賀美の魂を包み込んで行く。 「胡桃。あなたは生きて。あなたがいたから、私は幸せだった。胡桃がいつもそばにいたから、私は今まで生きて来られたんだよ」 「遥香、私も連れてって❗️」 「ダ・メ・ダ・❗️」 少女が紗夜に戻り、紗夜が胡桃を抱きしめる。 「あなたは、遥香さんのためにも、あなたのためにも、絶対に生きるの❗️」 かつてない程の悲しみと怒り。 紗夜の強烈な思念が、風を押し上げる。 「さよなら…胡桃」 既に加賀美と阿良宮は炎と共に消えていた。 紗夜が起こした風は、校庭の全ての桜に吹いて、如月遥香を鮮やかな桜吹雪が包み込む。 「遥香…」 涙が溢れる。 その涙も風に舞い散り、遥香の元へと届いた。 「さよなら…さよなら、くるみ…」 桜と共に、如月遥香の魂が消えていった。 鎮まり帰った校庭。 風が止み、ひとひらの花びらが、 胡桃の掌に、ふわりと舞い降りた。 ハートの形をした 不思議な花びらが… 🌸 Graduation 🌸 〜卒行〜    終幕   心譜。
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