131人が本棚に入れています
本棚に追加
地から離され、暴れる桜。
しかし、さっきまでのパワーはない。
「何かある❗️」
豊川が指さす先。
桜の根が、何かを絡めて抱いている。
すると…そのモノが光を放ち始めた。
絡まった根が、ずるり…ずるりと、解けていく。
「阿良宮…美里愛…」
まるで生きているかの様な姿で、一世代前の制服を着た彼女がいた。
8年間閉じていた瞳が、ゆっくりと開く。
優しげで寂しげな瞳。
(如月遥香さん…ありがとう)
さっきまでのボヤけたシルエットが、如月の形に変わっていく。
(皆さん。私を見つけてくれて…ありがとう)
その声は全員に聞こえた。
T2が、桜の木を元に戻す。
「スゲェなこりゃ…」
再び枝が騒めき、血の花びらが渦を巻く。
紗夜の右手から黒いモノが放たれ、直ぐに少女へと変貌した。
その目が紗夜を見る。
「みんな離れて❗️」
その意思を感じて紗夜が叫んだ。
校舎に囲まれた空間に、激しい風が巻き上がる。
「クソッ…紗夜さん手を!」
伸ばした豊川の手を掴む紗夜。
「うっりゃあー❗️」
「ヅガーン💥」
T2が校舎の壁を、体で砕いて破った。
「皆んな早く中へ入れ❗️」
豊川の腕を握り、彼に掴まっている紗夜と胡桃もろとも、中へと引き込んだ。
真っ赤な渦の中に、ソレが居た。
悪霊と化した、加賀美真湖の怨念。
「グッ…」
余りの恨みの強さに、紗夜の心が軋む。
「見るな紗夜!人が耐えれるものじゃねぇ❗️」
豊川が紗夜を隠す様に庇う。
その怨念の前に、如月遥香、阿良宮美里愛、悪魔の少女、そして魔力を回復させた七森華奈が立ちはだかる。
「ナゼ…邪魔をする?ナゼ、恨まない?私は憎い。殺しても殺してもまだまだ足りない。オマエたちは復讐もできないほどに、弱いのか?」
悪霊が嘲る様に問う。
「復讐の先にあるのは…虚無。虚しさと孤独の果てに、何が得られる?…何も満たされない憐れな自我に気付かないのか?」
問いに問いで反撃する七森。
復讐のために、自ら魔女となり人を殺した。
その愚かさに気付かされ、罪を背負って生かされるKANNAの、己への怒り🔥。
「憐れですね…本当に、加賀美真湖。ごめんね〜。私にはあなたの気持ちなんて、これっぽっちも分からない。分かりたくもない」
「遥香…」
胡桃は如月の苦しみを知っている。
木下からの迫害など、取るに足らないかすり傷であること。
本当の苦しみ。
自分の両親が犯し、隠した罪。
そして、その過去を引きずったまま生まれた自分の存在が許せなかった。
やり場のない絶望を抱き、苦しんだのである。
同じ境遇の胡桃だからこそ、分かる虚無感。
同調したかの様に遥香の目に炎が燃え上がる🔥
「私が死んでまで恨みを晴らしたいと思ったのは。…加賀美真湖、オマエだっ❗️」
「な…なに⁉️」
桜が逆風に舞い散った。
「少しは気付いたか?己の愚かさに。私は…オマエに殺された坂上紫乃譜に、ふざけて振り飛ばされ、たまたま開いていた窓から、今オマエが立っている穴へ落ちた」
「やはり事故…」
「イ・ヤ、チ・ガ・ウ」
紗夜の心を、少女が否定した。
「あの時…私はまだ生きていた」
悲しげに語る阿良宮美里愛の魂。
「そんな…まさか⁉️」
「マジかよ…」
「私は…生きたまま埋められた。土の匂い…土の味。虫に這われ、生きたまま食われる醜さと悔しさ。そこにオマエが突き刺され、さらに埋められ…私を喰らいながら育った」
「酷すぎる…」
紗夜でなくても、阿良宮の恨みは分かった。
「私を殺したのはオマエだ❗️8年間…だから8年間、今日この日まで、絶対に花は咲かさせなかったんだ❗️」
一際強く、怒りに満ち溢れた灼熱の焔が燃え上がる🔥。
「加賀美真湖!オマエだけは、地獄の果てのその先までも、絶対に逃がさない❗️この先、百年でも千年でも呪い、怨み続けてやる❗️」
同じ恨みを持つはずの2人。
その思惑が、真逆と知った時。
悪霊に、あからさまな動揺と、隙が生まれた。
「その花はオマエじゃない!咲かせたのは、この…私だ❗️」
「ボワッ🔥」
咲き誇る血の花びらが、一瞬にして燃え上がり、加賀美真湖の汚れた魂を蝕む。
「そんなバカな⁉️…やめろ…ヤメローッ❗️」
燃え上がる炎が🔥渦を巻き始め、加賀美の魂を包み込んで行く。
「胡桃。あなたは生きて。あなたがいたから、私は幸せだった。胡桃がいつもそばにいたから、私は今まで生きて来られたんだよ」
「遥香、私も連れてって❗️」
「ダ・メ・ダ・❗️」
少女が紗夜に戻り、紗夜が胡桃を抱きしめる。
「あなたは、遥香さんのためにも、あなたのためにも、絶対に生きるの❗️」
かつてない程の悲しみと怒り。
紗夜の強烈な思念が、風を押し上げる。
「さよなら…胡桃」
既に加賀美と阿良宮は炎と共に消えていた。
紗夜が起こした風は、校庭の全ての桜に吹いて、如月遥香を鮮やかな桜吹雪が包み込む。
「遥香…」
涙が溢れる。
その涙も風に舞い散り、遥香の元へと届いた。
「さよなら…さよなら、くるみ…」
桜と共に、如月遥香の魂が消えていった。
鎮まり帰った校庭。
風が止み、ひとひらの花びらが、
胡桃の掌に、ふわりと舞い降りた。
ハートの形をした
不思議な花びらが…
🌸 Graduation 🌸 〜卒行〜
終幕 心譜。
最初のコメントを投稿しよう!