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卒業式
3年間通った学校が神聖な物に感じる。
校門のところには「卒業式」の大きな看板が立てられていた。
体育館に響く歌声。
卒業証書の授与式が終わる。
後ろに控える保護者からの拍手とすすり泣きの声。
今日で高校生活が終わる。
小・中学と卒業式を経験しているが、特に印象が残っていない。
だけど、高校最後の今日は何故だか忘れない様にとしっかりとこの風景を焼き付けようとしていた。
在校生が立ち上がり、真ん中の通路を挟んで向かい合う。
卒業生の退場だ。背筋を伸ばして前についてゆっくりと進む。
在校生が拍手で見送ってくれる。
チラリと2年生が居る右側に目をやると頭一つ出ている中里がお猿のオモチャかと言う様に思い切り拍手をしていた。
調子が良いのは変わらないな。見た目が変わっても、やはりすぐ見つけてしまう。
拍手していた中里が自分を見ている事に気付いた様で今度は手を振ってきたので即座に前を向き俺は何も見ていないとサッサと体育館を後にした。
教室に戻り、担任の最後の話を聞く。
全ての行事が終わった。
クラスでは名残惜しく話し込んだり、写真を撮ったりして皆なかなか帰ろうとしない。
昨日の俺はグズグズ居残りをしていたのに、今日はクラスメイトを横目にカバンを持つと、教室を後にした。
玄関に中里が居るのだろうか……?
見送ると言った言葉を覚えており、サッサと向かおうとしている自分はどうかしていると思う。
今までは目立つ容姿にヘラヘラと人をあしらい、イライラの対象でしかなかった。
卒業間近にして、もうイライラしなくて良いのかと思うと寂しさが生まれた。
なんだかんだで、俺と対等に話をして嫌がらず避けずに居たのはアイツだけだったかもしれない。
昨日と同じ様に、玄関に向かうと靴入れの前に人影があった。中里だ。
「先輩……!」
俺に気付いて嬉しそうな表情を見せる。
その表情に心臓が跳ねた。
今までこんな事無かったのに……。
制服の上から心臓ををギュッと抑え込む。
意識するからか、心臓は治まる事無く、余計に落ち着きなく暴れている。
「? 顔が赤いけど、大丈夫すか?」
近付いてコツンと額をくっつけられる。
「……熱は無さそうですね」
驚いて思いっきり仰け反り、その反動で後ろに倒れそうになる。
「わっ!危ない!」
ガッシリと大きな手が背中に回り、すんでの所で助けられた。
「す、すまない。大丈夫だ」
これ以上の醜態を晒すまいと、暴れる心臓を抑え、許容オーバーでパニックに陥っている脳を叱咤して、それだけをやっと言う。
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