3.

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鍵を回して開錠すると扉を開けて中へと入って行く。 靴箱の上の棚には煙草とライターが置いて在り、家の鍵の代わりにそれを取って部屋の奥へと入って行った。 広さはあまりない2DKのマンションはフローリングに直に置かれたマットレスとノートパソコンがあるだけだった。 扉が開いたままのクローゼットにも数える程度の服しか掛かっておらず、この部屋の中で一番多いのはコンビニ弁当のゴミであった。 買って来た弁当の入ったビニール袋をパソコンの傍に置くとそのままベランダへと続く窓を開く。 とりあえず買ったビニール製のサンダルを履くと灰皿を置いた室外機に煙草のケースを置いた。 カチンっと音を鳴らしてジッポで点ける火が煙を漂わせるとそれもまた煙草のケースの上に置き手すりにもたれてニコチンを肺の隅々まで行き渡らせる。 深い深い溜息を吐いたのは雪十だった。 煙草の煙を漂わせながら目的もなく外を眺める。そんな日々を過ごしてすでにひと月が過ぎようとしていた。 消えた憧耀の死体は今もなお捜索が進められているが何の手掛かりも掴めていないことを昨日、陽から聞いたばかりだった。 あの日、憧耀の頭にめがけて引き金を引いた感触はまだ覚えていて、彼の死体が消えてしまったとしても殺したと言う事実が無くなるワケではなかった。 後悔はしていない。だが、釈然としない結末を残したまま帰国することは考えられなかった。基、帰る場所などなかったから日本に来たワケで憧耀を失った今、雪十は目的を見失っていた。 憧耀が遺した金と陽の助けを借りて衣食住を整えることは出来たものの、何故生きるのか?どうやって生きていくのか?と考えを巡らせては時間だけが過ぎていっていた。 不意にベランダの手すりに一羽の烏が止まった。 自分が煙草を吸っているのにまったく警戒することもなく隣に留まる烏を雪十は訝し気に睨んだ。 しわがれた声で鳴く烏がバタバタと羽ばたくと足首に紙が結び付けられていることに気が付く。 雪十の直感が働いた。この烏が運んできたモノが何なのかを。
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