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次の日、本署の拾得物担当の係に相談したところ、一定の条件はあるけど拾得にゃんこは駄菓子屋のおばあちゃんにもらわれることになった。法律では飼い主が現ればそこに還すことになるけど、おばあちゃんの方がそれまでの間だけでも良いとのことで彼はケージから「釈放」された。あれから一週間が経ったが、今も飼い主は現れていないーー。
いずれにせよ、彼の命は救われたということだ。私は毎朝出勤でお店の前を通るたびに引き戸に空けられた彼の通用口が目に止まる。
時折り軒先で掃き掃除をしているおばあちゃんが私を見つけて挨拶してくれる。足元にははにかむように隠れてこちらの様子を窺う彼の姿が見えた。
本来は鑑識係の仕事ではないけれど、街の問題が一つ解決したことで私は気分が弾んでいたーー。
🐾
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たまたま事件のなかった昼休み、珍しく班長は私を昼食に誘ってくれた。横にはかつての弟子の外川主任もいて、最近商店街にできたお店に行ってみないかというものだ。今回は面白い話題があるみたいで、班長は手にネタ元であろう葉書を持っている。
「早川」
「はい」
「受付からこんな面白い手紙が来てたぞ」
私は受付で預かったという葉書を班長から手渡された。丁寧な字で書かれたその宛先は、東警察署鑑識係と書いてある。送り主を確認すると……、
「あっ……」
先日臨場した駄菓子屋のおばあちゃんだ。
先日はありがとうございました。
お陰様で、彼は招き猫としてお店に来る
子どもたちにも可愛がられています。
草々
班長が以前「当事者にしたら被害とか関係ないんだ」と言ってたのを思い出した。私はこのハガキで、本当の意味であの駄菓子屋の問題が解決したと確認できて、溢れるように笑みが出ていた。
「事件の検挙ではないけど、いい仕事したな」
「へへん」
私は指で鼻をこすって得意気な顔を見せた。
「それより、メシ行きましょうよ。この時間並びますよ」
3人で笑っていると無常にも部屋の無線が東署を呼んだ。
「県警本部から東署」
「東署ですどうぞ」
「泥棒に入られている……」
笑ってられるのも束の間、無線機が次なる現場の臨場依頼を告げた。私の業務はまだまだ続くーー。
「あーあ」
「しゃあないな。ほな、現場見に行こうか……」
「メシはそのあとで」
「了解でっす!」
東警察署鑑識係員、早川菜那子巡査の勤務日誌2 🐾 駄菓子屋の窃盗犯 🐾 おわり
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