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2 侵入犯、再び
その日は交通事故や酔っ払いの保護など、他の課の当直員は忙しかったようだけど、幸い刑事課の取り扱いは謎の駄菓子屋泥棒事件だけで終わった。
私はまだ誰も出勤しない刑事課の部屋を掃除していたら、今日が当直の多聞班長が出勤してきた。
「おはようございます」
「おう、昨日は凪だったみたいだな?」
班長は笑って声をかけた。というのも、当直中に事件が入れば朝から部屋がバタバタしているのが明らかなので、様子で分かる。
「そんな当直があってもいいよな、たまには」
「はい、事件は無いに越したことは」
「で、昨日は何か取り扱いあった?」
とはいえ、全く何もなかった訳ではないので、私は昨日の駄菓子屋に入った盗難事件のことを話した。
「あの、駄菓子屋がねぇ」
班長は首を2回ほどしゃくった。電車を降りて東署にくる時に通るところにあるから当然班長も知っている。
「外川はどう現場を見た?」
「そうですね、たしかにモノは無くなってるけど、本当の泥棒ではないような……って」
「まぁ、そうなるな。ガチならお菓子だけのためにリスク背負わないな」
いつもの就勤時間になると当直は交代となる。時計を見たらあと5分で私は解放される。
非番は何をしようか、ここんところ忙しかったので溜まった洗濯もしたいし、部屋の掃除もしたい。頭だけが5分先にいるその時、諦めを知らせる無線が聞こえた。
「県警本部から東署」
「東署です、どうぞ」
「泥棒に入られた。昨日も
入られてる、場所は……」
「またですかぁ?」
通報を聞いて思わず声が出た。
私は心の中で「なんであと5分後に言ってくれないのよ」と言おうと思ったけど、そうなるとあの現場を多聞班長が行くことになる。なので気持ちを押し殺し、泣く泣く出動の用意をした。
お店には絶対に言えないけど、そんなに金目の物がないとわかったところに何故狙い続けるのだろう。
「まぁ現場行こか。歩いて行ける所だし、すぐ終わるぞ」
「……はい」
「犯人捕まえるのも大事だけど、当事者にとったらどっちでもいいんだよ」
明け番モードの私を班長の一言が引き戻した。店のおばあちゃんにしてみたら被害額より誰かが入ったかもしれないという問題を解決して欲しいのだ。そこは原因が分かるまでは私たちの任務であり、当たり前のことを忘れかけていた自分に反省をした。
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