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3 侵入犯、検挙
次の当直が回ってきた。署の受付で来訪者の対応をしていると、正面の自動扉が開き、小学生くらいの子どもを連れた母親との二人連れが入ってきた。
「どうされましたか?」
私はカウンター席から立ち上がって相手を見ると、その内容は子どもが胸に抱えているものでここへ来た理由がおおよそが分かった。
それは両脇をしっかり抱えられて、目を大きくしてこちらの様子を窺っていて、手を伸ばそうとしたら小さな声で返事をした。
ニャー……
お母さんの話によると……。
先日から家の軒下にいるのは何度か見かけたようだけど、特に迷惑ではなかったので放っていたようだ。しかし、昨日窓を閉め忘れて外出して帰ったらこの子どもに抱えられている猫が家の中に入ってしまい、部屋中を荒らしたというのだ。
「住居侵入の現行犯で逮捕されたってこと?」
横にいた外川主任がカウンターの前に出て、その犯人の頭を撫でた。観念しているのかおとなしくしている。
「確保したはいいけどこの子、人に飼われてるのだったら飼い主さん困ってるかと思って……」
「確かに……」
ひとまず私たちは子どもから猫を預かり、両手に抱えた。大きな抵抗もなく署の備え付けのケージにも素直に入ると、一声鳴いて丸まっておとなしくなった。
「ねえねえ、アナタはどこから来たの?」
と問いかけても答えてくれるはずもない。不貞た顔で一瞬チラッとこちらを見ると後ろ足で頭をかいて目を閉じた。
「どうやら、言いたくなさそうだね」
「はい……。そのように見えるから不思議」
抵抗はしないけど機嫌は良くなさそう。いや、本当は何か言いたいことがあるのかな?、当直のみんなが猫を飼ったことがないものだから、不意にやってきた「侵入犯」の扱いが分からないまま時間だけが過ぎたーー。
🐾 🐾 🐾
結局私たちはその猫を拾得物として預かることとなった。毛並みや雰囲気からして誰かに飼われていた感じはするのだけど、飼い主についてこの子に聞いたって相変わらずふてたままだし、警察からは「こんな猫預かってます」くらいしかいうことができない。
そして……。警察も無限に預かってあげられる訳ではなく、最終的に持ち主が現れなければ県に引継ぎしなければならない。だから、生き物を預かるのはとても心が苦しい。
「どうしましょうか?……ねぇ。」
私は自腹で買った牛乳を与えてケージに入れると、彼は小さな声で返事をしてくれた。
ニャー……
「早川」
私がケージに指を出してその猫と遊んでいるところを外川主任が後ろから呼んだ。
「なんですか?」
「こないだの駄菓子屋の侵入犯もコイツじゃないか?」
その言葉で私は先日まで記憶を巻き戻した。確かに、現場は保護された所から遠くない。そして、この表情。どことなく寂しくなって食べ物のある駄菓子屋に入り込んだと推測すると何故か納得してしまう。だけど彼に質問しても答えてくれないだろうし、仕草がダンマリ決め込む犯人のように見えたーー。
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