初めての落語 初めての長短

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 舞台中央に簡素な高座が浮かび上がる。  舞台袖より年配の噺家さんが出て来て、音もなくスッと座る。  翡翠色の着物に地味な深緑の羽織が場に馴染む。   「えー、本日は寒い中、お集り下さりありがとうございます。  本日の大入り、大変ありがたい事でございます。  昨今の落語ブームにあやかりまして、落語を聴くだけでなく自分でもやってみようかなという方が増えている様です。落語教室なんてのも全国各地にあるようでございます。皆さんに広く楽しんでいただきありがたいものです。  ありがたいのですが、落語を聴いて楽しむのと、話して楽しむのは、また全然違う物でして、これは、なかなか難しいものです。  大丈夫ですよ。難しいけど、その難しさも楽しみましょうよ。一生懸命やってくだされば、その一生懸命さが微笑ましかったり、面白かったりするもんです。いや、本当に面白いんですよ。生徒さんが一生懸命やっていて面白いもんだから、「ハハハ」って大声で笑ったりなんかしますとね。 『真剣にやってるんだから笑わないで下さい!』 『ハハ、すみません』  ってな具合で怒られちゃったりしてね。  結構、面白いんです。  さて、女性が強い時代です。女性の噺家さんもおおいに活躍されています。国際化の時代でもあります。いろんな国の方が落語をやってらっしゃいます。高齢化社会であります。退職なさってから落語を始める方も沢山いらっしゃいます。みんなで笑って、ますます元気になってもらえれば、と思います。  いろんな方にやって頂きたい落語ですが、残念ながら、どうも落語をやるのに向かない方がいる様です。ええ、極端に気の短い方、それに、極端に気の長~い方。そう、ちょうど落語の『長短』に出て来る様な二人には、落語は少し向いてないのかも知れませんね」  舞台が暗転し暗闇に包まれる。  × × ×
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