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「お二人とも、他人を演じる事ができないんじゃ落語には向いてませんよ。残念ですが」
長太郎はがっくりと項垂れました。それをみた短八がポンポンと優しく長太郎の肩を叩いてあげています。
「俺からもお願いいたしやす」
短八さんが座り直し頭を下げました。
「しかしまあ、どうしてそんなに『長短』をやりたいんだい? 何か理由でもあるんですか?」
ふと気になって聞いてみました。
「へえ~、私のお父つぁんは、この『長短落語』がだ~い好きでして、特に先生の落語が、だ~い好きで」
「おう、そりゃありがたい」
「私も~、赤ちゃんの頃から、良~く聴いてまして。先生の落語じゃ~なきゃダメなんです」
「嬉しい事言ってくれるねー」
「ええ~、先生の落語じゃ~なきゃ、夜泣きがひどくって寝なかった~らしいんです」
「おい! ていうと何かい、私の落語は子守り歌じゃなくて子守り落語かい」
「不思議と良~く寝るって、へへへ~」
「喜んでいいのか悪いのか、まあ、いいや、それで」
「お父つぁんに抱かれてこの落語聴くと落ち着くんだ~。ゆ~らゆら腕の中で、いい気持ち。赤ちゃんの時の事もそれだけは覚えてるんだ~。へへ~、こんな年になって言う事じゃ~ないんですけどね」
「悪い予感がして来たぞ。お前さん、長短をやる理由を赤ちゃんの頃からずーっと話して行くんじゃないだろうな。いや、あり得るぞ。おい、もっとこう要約して話せ短く短くだ」
「へえ~、その~…… まあ~、で、そのお父つぁんも先日亡くなりまして」
「……そうか、そりゃ、悪い事聞いたな。すまん。御愁傷様です」
「天国のお父つぁんに、この~『長短落語』を演じてやりたいな~って」
「……」
「ちょ~っとのんびりした、こんなおらを心配してたから、大丈夫だよ~って、安心させたいんだ~。どうせなら、お父つぁんの好きな落語の一つでもやって驚かせて、笑わしてやろうかと。へへへ~」
「そうか」
なんかちょっと胸が痛くなりました。
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