初めての落語 初めての長短

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  「だけどそれじゃあ、短八さんは別にやらなくてもいい訳だ」 「そ~なんだけどね~。おらが、こうやって、覚えてると、よ~し、俺も一緒に覚えてやら~ってな具合にね」  短八さんが顔を背けます。 「ケッ、そんなんじゃねえよ。いつまでたっても覚え終わらねえから、イライラして俺も覚えちまったんだよ」 「それに、今日だってさ~。おらをひっぱってね~。ここまで連れて来てくれたんだ~」 「ケッ」 「ありがとう~」  ツラの皮の厚い奴だと思いましたが、なかなかどうして。うーん、二人を何とかしてあげたい気持ちになって来ました。しかし、あの落語じゃな。  そうだ! その時、私の頭に一ついい事が思い浮かびました。 「よし分かった。じゃ、二人でやんなさい。短七は短八さんが。長さんは長太郎さんが。そうすれば上手くいくんじゃないですか」 「えっ? 先生、でもそれじゃ落語じゃねえんじゃ」  短八さんが驚いて尻を浮かせました。 「いいじゃないですか。それで。あなたは短八さん。あなたは長太郎さん。そして私は噺家です。ね、なにも噺家になろうって言うんじゃないんだから。短八さんは短八さん。長太郎さんは長太郎さん。ね、それでいいんです。そして、短八さんには長太郎さんが、長太郎さんには短八さんが、必要なんです。そう思いましたよ、私は」  短八さんと、長太郎さんは顔を見合わせると笑い出しました。  「よし。じゃ、一丁やってみるか」  「そ~だね~。やってみよう」  こうして二人での落語、ここは「落語じゃないって」怒られるかもしれませんがあえて落語と言わせて下さいね。が始まる事となりました。  二人でやるとね、普通、間が合わないんですよ。それはそれで、ものすごく難しい。いえね、私も昔遊んだ事があるんです。無理でした。だから普段、こんな事は絶対言わないんですが、二人を見てると何だかね。  「いいですか、短八さんには長太郎さん。長太郎さんには短八さんがいるんだ。相手をよく見て掛け合うんだよ」  こうして二人の落語が始まる事となりました。
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