15人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰だい? 誰? いや、その戸の隙間から、ホラ、そこ」
短八さんの話に、長太郎さんがちゃんと動きを合わせます。いや、動きはうまいんだ。そして今度は短八さんも、ちゃんと長太郎さんを見て、間を開けて話を進めます。
二人の落語が始まりました。
ちゃんと、ニヤッとしてクスッと笑えます。始まってすぐに、どうやら私は二人の世界に引き込まれたようで、何気ない控室の空間に江戸の空気が流れます。肌にじっとりと汗をかきました。
よく研究している。しかも私の「長短」だ。
いや、よく見ると流れは汲んでいるがちょっと違うか。流石にぎこちなさが少しありますしね。
何だか見てて不思議な感じです。とても懐かしい。
あ、そうか、これは私の師匠の「長短」も入っているのか。
二人の落語が、私を過去へと連れて行きます。
やがて、短七が長さんに丸餅をすすめるくだりが始まりました。長さんが丸餅を手に取り、嬉しそうに眺めます。それを早く食べろと急かす短七。
「早く食べなって。どうだ。美味いだろ」
「まだ、食べていないよ~。せわしないねぇ~」
餅を半分に割って右と左を見比べて、そして何かに納得し右半分を口に持って行きます。
ハハハ、うまいねー。それになんか美味しそうだな。
ああ、そうなのか。私はまた、手に汗を握りました。
これは、私が練習して練習して練習して、初めてものにした時の「初めての長短」だ。そうか。そうだよ。
この、ちょっとしたぎこちなさも、一生懸命な感じも。そうか。そうか。
話は最後、キセルのくだりに入ります。
「短七さんはさ~気が短いから、人から何か教わるってのは、嫌いだろうね~」
「嫌いだね!」
「おらが教えても~」
「お前ぇは違うよ。何かあったら言っとくれ。何だい」
「ホント? 怒らない~?」
「怒らなねえよ。何だ、言ってみな。えっ! 何だよ! 何だ!」
「じゃ~、話をするけど~、さっきさ、短七さんタバコを吸ってさ、火玉を活きよいよ~くはたいたら、その火玉が煙草盆に入らずにね、ほらそこ~袂の袖口から中に飛び込んでね~、いいのかな~と思っていたら煙が出てね。今見ていたら~、燃えだしたよ。事によっちゃあ消した方が良いのかな~」
「この野郎。消した方がいいに決まっているだろ。ああー、ああー、こんなに穴が。この馬鹿野郎!」
「ほれ~。や~っぱり怒るじゃねぇ~か。だから、教えない方が良かった」
フフっと私の口から笑いがこぼれました。
パチパチパチと二人に拍手を送ります。
二人は何故かポカンと私の顔をみておりました。
いや、見ているのは私の少し上でしょうか?
「どうしました?」
最初のコメントを投稿しよう!