初めての落語 初めての長短

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「誰だい? 誰? いや、その戸の隙間から、ホラ、そこ」  短八さんの話に、長太郎さんがちゃんと動きを合わせます。いや、動きはうまいんだ。そして今度は短八さんも、ちゃんと長太郎さんを見て、間を開けて話を進めます。  二人の落語が始まりました。    ちゃんと、ニヤッとしてクスッと笑えます。始まってすぐに、どうやら私は二人の世界に引き込まれたようで、何気ない控室の空間に江戸の空気が流れます。肌にじっとりと汗をかきました。  よく研究している。しかも私の「長短」だ。  いや、よく見ると流れは汲んでいるがちょっと違うか。流石にぎこちなさが少しありますしね。  何だか見てて不思議な感じです。とても懐かしい。  あ、そうか、これは私の師匠の「長短」も入っているのか。  二人の落語が、私を過去へと連れて行きます。    やがて、短七が長さんに丸餅をすすめるくだりが始まりました。長さんが丸餅を手に取り、嬉しそうに眺めます。それを早く食べろと急かす短七。 「早く食べなって。どうだ。美味いだろ」 「まだ、食べていないよ~。せわしないねぇ~」  餅を半分に割って右と左を見比べて、そして何かに納得し右半分を口に持って行きます。  ハハハ、うまいねー。それになんか美味しそうだな。  ああ、そうなのか。私はまた、手に汗を握りました。  これは、私が練習して練習して練習して、初めてものにした時の「初めての長短」だ。そうか。そうだよ。    この、ちょっとしたぎこちなさも、一生懸命な感じも。そうか。そうか。  話は最後、キセルのくだりに入ります。 「短七さんはさ~気が短いから、人から何か教わるってのは、嫌いだろうね~」 「嫌いだね!」 「おらが教えても~」 「お前ぇは違うよ。何かあったら言っとくれ。何だい」 「ホント? 怒らない~?」 「怒らなねえよ。何だ、言ってみな。えっ! 何だよ! 何だ!」 「じゃ~、話をするけど~、さっきさ、短七さんタバコを吸ってさ、火玉を活きよいよ~くはたいたら、その火玉が煙草盆に入らずにね、ほらそこ~袂の袖口から中に飛び込んでね~、いいのかな~と思っていたら煙が出てね。今見ていたら~、燃えだしたよ。事によっちゃあ消した方が良いのかな~」 「この野郎。消した方がいいに決まっているだろ。ああー、ああー、こんなに穴が。この馬鹿野郎!」 「ほれ~。や~っぱり怒るじゃねぇ~か。だから、教えない方が良かった」    フフっと私の口から笑いがこぼれました。  パチパチパチと二人に拍手を送ります。    二人は何故かポカンと私の顔をみておりました。  いや、見ているのは私の少し上でしょうか? 「どうしました?」
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