15人が本棚に入れています
本棚に追加
「お父つぁんには聞いていただけましたかね」
「笑顔で涙流してます」
「ふぁ~、おいらもね〜。涙が、出て来ました」
長太郎さんが欠伸をしながら背筋を伸ばしました。
「寝てたじゃないかい。でも、まあ、満足してもらえたのなら結構結構」
「先生、本当にありがとうございました。じゃ俺らは帰るぞ」
「お父つぁんも帰ってもらってくださいね」
「それが、あの~」
また、長太郎がもじもじとしておりました。
「びっくりしね~かな~」
「なんですか、今更何もびっくりしないから早く言いなさい」
「あの~、おとっちゃんが~、その~、友達も連れてきちゃったようで。芝浜から勝五郎、粗忽長屋から熊五郎、酒の粕からは与太郎が、あら~、なんか次から次へと」
「そうですか、でももう疲れました。申し訳ないけど帰ってもらって下さい」
「それで~、その中の一人が、あの~、お土産が欲しいそうで」
「もうありません」
「でも~手土産が欲しいそうで」
「ありません」
「でも〜、あの〜、もうそこでお土産もらうの構えてまして」
「ツラの皮の厚い人だねー」
「いえいえ厚くはないですよ。だって、ツラの皮はないんです」
短八さんが顔の前で手を激しく振り答えました。
「ない?」
「ないんです」
「?」
「あの~、死神が。古典から来た死神が。ど~しても冥土の土産が欲しいんだそうで。鎌を構え、す~ぐ横に立ってます」
「は、早く言ってよー」
私は飛び上がって逃げるように控え室を後にしました。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!