プロローグ:戸籍が世界で一番大好き

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 特に一階の戸籍住民課は、利用客で大変な混雑が起きている。  九月に入ってからずっと、雨予報だったからだろうなとひなたは想像した。本当にほぼ毎日雨だった。小雨が途切れ途切れに降った日も、大雨警報が出た日もある。  今日はめずらしく太陽が顔を見せたから、チャンス! と思って、ひなたは低いヒールのパンプスとズボンスーツ姿でやってきた。そうしたら地域の人たちの考えることは、みんな一緒だったわけだ。  区役所の用事を済まそうと、住民課に列を成した。普段はせいぜい数人にとどまっている『呼び出し待ち人数』を示す発券機が、二十人待ちと表示している。目を見張っているそばから更に一人、短い白髪の高齢女性が、券を抜き取っていった。  離れた筆記台から窓口の様子をうかがっていたひなたは、首の裏側を掻いた。
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