第1話.時代がめぐっても、気持ちはきっと埋もれない

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 声の限り叫ぶと、内田は臆する様子もなく斜面と向き合う体勢になり、ひなたの元に降りてきた。 「もう大丈夫ですよ。待っててください」  頼もしい言葉を掛けてくれる。 「すみません、お仕事中に」 「眞宮さんのためなら、構いませんて。さあ、僕の肩につかまることはできますか」  言われて、頷いたひなたは、グレー系の水色をした作業服の厚い肩に、手の平を掛けた。指示された通りに、両肩をつかみ、おんぶされる要領で背中にしがみつく。肌の出ている首や耳の後ろに顔を近づけた途端、うぶなひなたは不覚にも頬を染めてしまった。 (彼、偶然ぽいけど、来てくれた)  勇気を持ってスイッチを入れたスマホの電波は、内田見晴につながったのだ。  やわらかい土の壁に内田が苦戦する場面もあったけれど、彼の力で、二人は無事道の上へと生還を果たした。  ひなたはアスファルト面にへたり込む。たしかにパンプスの片方が近くに落ちていた。数メートル離れて、町役場の物とおぼしき銀の軽自動車が停まっていた。
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