遺言

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迎えた卒業式。 私のクラスは全員が進学先を決め、その日を迎えた。 久しぶりの全員が揃った教室は笑顔が溢れていた。 黒板には、チョークで綺麗なアートがなされ、真ん中にデカデカと『笑顔』と書いてあった。 「何アレ!」 「先生が描いたのかな!?」 「ウマーーー!」 「暇か!」 「笑顔て!!最後のメッセージ、笑顔、て!!」 「先生らしーーー!」 皆が黒板を見て盛り上がっている。 本当にその通りである。 机の上には突然の休校で配りきれなかったのだろう沢山のものが置かれている。 確かに、袋を持ってこいとは指示されていたが……。 チャイムが鳴ると先生がいつもとは違う足音を鳴らして現れた。 「うわ〜〜〜!キレーーー!」 「先生女子してる〜〜〜!」 「先生の化粧初めて見た!」 「いつもすればいいのにーー!」 袴を着て化粧をした先生がそこにいた。 密かに思っていたが、先生は美人だ。 化粧をせずに外を歩けるくらいに。 「はいはい、うるさいよー」 中身は変わらず先生だった。 「ん、じゃぁ出席とります。呼名の練習だと思って真面目に返事ね」 呼ばれていく名前に対する返事はいつもと変わらない。 それでも先生は最後の朝の会を淡々と進める。 「コサージュは左胸。5分後整列ね」 朝の会が終わると、トイレ休憩だけして整列する。 一大イベント。 卒業式が、始まった。 時間短縮のため、卒業証書授与は代表のみ。 1人1人が名前を呼ばれ、立っては座りを繰り返す。 「3組」 少し震えた先生の声が響く。 緊張しているのか、泣かないよう我慢しているのかはわからない。 けど、男子の1番の常にはない大きな返事を聞いて、先生は目尻を下げて笑顔を作り、調子を取り戻したように呼名を続けた。 1組の1番の男子が代表して登壇し校長先生から卒業証書を受け取る。 校長先生の祝辞。 卒業生代表の挨拶。 3年間があっという間に駆け抜けた。 「ちょっと待った!!」 卒業式も終わり、退場を呼びかけられた時、学年の代表格たちが声を張り上げた。 事前にあった連絡通りだ。 『最後に先生達に感謝の歌、歌いたいから、準備しといて。交渉はしとくから』 どうやら交渉は成立したらしい。 前に一列に並んだ先生達に向けて、全員で最後の合唱。 先生達は暖かい目で歌を聴きながら、泣いていた。 釣られて私も泣いた。
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