遺言

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「いやぁ、あれは反則だよね、泣くよね、そりゃ」 開き直った先生は、教室に戻って開口一番にそういった。 目にもう涙はない。 少しだけ残念。 与えられた学級の時間で一人一人がコメントを述べていく。 「煩いし騒がしくて大変だったけど、団結力もあって楽しいクラスでした!」 それも先生のおかげです。 誰もそうは言わないけど。 誰もがそう思ってる。 その証拠に、皆から先生に贈ったメッセージカードにはそんな感じのことがたくさん書いてあった。 「はい、皆ありがとう」 そして最後は先生の番。 口を開いた先生の言葉を皆が真剣に聞く。 先生の声にはきっと魔法がかかっていて、皆の注目を集める力がある。 冗談を言ったり、ふざけている時とはまた違う声の温度に、誰もが耳を傾ける。 「卒業は終わりではなく始まりです。私たちから離れて体育館を出て行く君たちの姿を見れて、新たな一歩を踏み出す背中を見れて、私は幸せです。新たな道があること、新たにスタートが切れることに喜びを持ってください。新しいことを始めれば、たくさんのことが変わるかもしれない。その変化によって耐えられないこと、嫌なこともあるかもしれない。それでも、めげずに、負けずに、進んでほしい。私はいつまでも君たちの先生です。何があってもずっと君たちを応援しています。私の生徒になってくれてありがとう。良い人生を」 パチパチ、という小さな拍手から徐々に大きな拍手へと変わる。 「はい、じゃぁ号令。写真は外で。スマホは持たない。お家の人に撮ってもらうこと、OK?」 最後までそんなことを言う先生に、さすがだな、と笑いながら、はーーーい、といい返事を皆でする。 「先生、ありがとうございました」 「また、会いにきます」 「何かあったら報告きますね」 写真を撮り終わりそう言って去っていく生徒達に笑顔で手を振る先生。 私も例に漏れずその1人。 名残惜しさを振り切るように、前だけを見て校門を出た。
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