初めてのサイン会

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 心臓が口から飛び出そうな心地がする。間もなく読者との交流として初めてのサイン会が始まる。サイン会を企画した店員から、開始を早めたいとの相談があった。読者の集まり具合が良いとのこと。字を書くのが下手なので、出来れば避けたかったサイン会。断り切れず、いよいよ開始の合図があり、入場しようとしたが、めまいがして倒れてしまった。  気がつくと、大量の汗。これは夢だったらしい。作家活動として投稿サイトに応募しているだけで、サイン会は夢のまた夢。書店でバイトしていたので、作家のサイン会が何度も企画され、いつか自分もと憧れているうちに夢に見たらしい。だが字を書くのが下手だというのは事実。今から習っておこうと、ペン字を週一回習うことにした。まず、ゆっくり美しく書けるようにして、次第に書くスピードを速くするようにした。  一年過ぎて、それなりに上手く字を書けるようになったが、相変わらず作家としてはパッとしない。書店からは、手書きのポスターの作成依頼が来たり、新鋭の作家からサイン会の前に特訓してくれないかとの依頼を受けたりした。  いつの間にか、作家というよりは、ペン習字の書き手になった。手書きのポスターは好評で、誰が書いているのかと話題になり、色紙にサインして欲しいという人まで現れた。ひょうたんから駒のような話しだが、快く次のように書いた。   美 文 字             森野水琴
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