じゃんけん

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じゃんけん

 きっかけなんて、どこにでも転がっているものだ。私が妻と結婚したのも、彼女といつも二人で打ち合わせをしていたからだし、期待されていなかった食玩がバカ売れしたのも、うちの従業員が返品されたステッカーで遊んでいるのを見たからだった。  遊びと言っても大した独創性はなく、ひとことで言えば、「じゃんけん」(ロック・シザー・ペーパー)だった。騎士(グー)怪物(チョキ)に勝ち、怪物(チョキ)少女(パー)に勝ち、騎士(グー)少女(パー)に敵わない、というルールだ。裏返しにシャッフルしたステッカーを手札にして、場に一枚ずつ出して勝ち負けを競っていた。  私たちもやってみたが、単純な割に面白い。そこでメーカーに相談し、ステッカーの台紙裏面に騎士(グー)怪物(チョキ)(パー)それぞれに対応したマークを描き、デザイナーの考えていたキャラ設定を書き込んでみた。  初めの1年は、何ひとつ反響がなかった。ところが知らぬ間に、「もっとも安くて、もっともシンプルなカードゲーム」との評判が広がり、ある日突然、チョコ菓子が売れ出した。  メーカーの要望に従ってキャラクターを増やし、グーチョキパー以外にも「魔法力」という数値(パラメータ)や他の要素を付け加えた。つまり単純なジャンケンルールでも遊べるけれど、やろうと思えばもう少し複雑なルールを付け加えて遊ぶことも出来る、という余地を作ったのが良かったらしい。オンライン対戦ゲームが流行するほんの少し前に、単なるチョコ菓子のおまけだったステッカーで全国大会が開かれるほど、チョコモン・カードゲームはヒットしたのだ。  チョコモンは社会現象となり、菓子も売れた。うちの印刷所もかなり規模を拡大することが出来て、私は妻と結婚することが出来たのだ。
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