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西嶌千勢が異世界人取り締まり課で掃除を担当するようになってから一週間が過ぎた。
千勢がこの世界に紛れ込んでしまった時に世話になった家とは違い、便利な道具が多々あるここで、見たこともない掃除道具が出てくるかもという不安と期待は、まったくの空振りに終わった。
動力が何かはわからないが、物はほぼ同じだった。
使い方もすぐに覚えてしまい、三日が過ぎる頃には、掃除の他に簡単な雑用も頼まれるようになっていた。
その間も、千勢の帰還ポイント調査は続けられていたのだが、いまだに朗報は訪れない。
千勢にできることは何もないため、待つしかないのがもどかしくて仕方がなかった。
そうしてさらに五日が経った時、千勢は課の技術班室で最悪のことを告げられた。
「君と、君がいた世界との繋がりが消えてしまった――」
千勢を担当していた班員のダリウス・マルゴが沈痛な面持ちで言った。
しばらくは理解ができなかった、いや、したくなかった。
ただ、鼓動だけが早かった。
一緒に呼ばれたニーロ・コスタグランデも唖然としている。
ショックで早まっていく呼吸を、胸に手を当てて静めようとしても何の効果もない。
それでも千勢は、途切れ途切れに言葉を発した。
「それは……一時的なもの、ですか? 私は、どうなってしまうんですか……」
今日はちょっと変だっただけだと、言ってほしかった。
しかし、ダリウスは暗い表情で首を横に振った。
「君がどうなってしまうかはわからない。でも、今後も調査は続けるよ。……君のような事例はごく稀だけどあるんだ。ここじゃないけどね」
「その人は……?」
「別の世界に安定した繋がりが発生して、そこへ行ったよ。何故そんなふうになったのかはわかってないけどね。ごめん……何の励ましにもならなかったね」
「いえ……」
千勢の視線は下がり、同時に妙な寒さを覚えた。
「今日はもう上がっていい。ここにいたいなら、いてもいいけど……」
「あ……すみません、今は、何の役にも立てそうにない、かな……」
千勢はニーロの気遣いを素直に受けることにした。
「わかった。課長には俺から言っておく。一人で大丈夫か?」
「はい……ちょっと、気持ちを整理してきます……」
ノロノロと頭を下げ、千勢は俯いたまま部屋を出た。
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